「ABC殺人事件」アガサ・クリスティー ~アルファベット順に殺される?~

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“――今月21日のアンドーヴァーに注意することだ”
ポワロの自宅に届いた、「ABC」を名乗る謎の挑戦状。
当日、現地で頭文字がAの女性が殺され、その後も新たな予告と共に、Bから始まる名前の町で頭文字がBの被害者が、Cの町でCの被害者が発見される。
ポワロはヘイスティングズと共に見えない敵を追うが……。

 

朗報:ヘイスティングズ登場! 笑

 このブログで初めて紹介する、ポワロの相棒・ヘイスティングズが出てくる作品です!
 わーいやったー!

 

 1936年に出版された(解説によると発表は1935年)、作者クリスティー18番目の長編です。

 

『スタイルズ荘の怪事件』(1920年発表のクリスティーデビュー作)に登場して以来、ポワロの友人として調査に協力し、事件を手記にまとめてきた、アーサー・ヘイスティングズ大尉
 その後、結婚した彼はアルゼンチンに移住してしまいました。(さびしい……)

 

 

 でも、この事件のときはちょうど一時帰国中で、ロンドンにあるポワロのマンションに滞在しているのです。

 

 白髪がどうしたとか、口ひげが薄くなっちゃったらどうしようとか、いつも通りしょーもない会話をしているふたり 笑 
 ほのぼのするー。

 

 アルゼンチンでの農場暮らしで日焼けしたのか、本作では外国人と間違われることもあるヘイスティングズですが、お人好しで単純なのは相変わらず。
 今回も、一周まわって事件解決のヒントになることを(自分では気づかずに)ぽろっと口にして、ポワロを助けることになります。


 そして、か弱そうな美女に弱いのも相変わらず 笑
 子どもの頃読んだときには、ヘイスティングズのヒーロー願望をポワロがからかうところはピンとこなくて読み飛ばしてたけど、今ならわかる! むしろ、ほとんどの男性が持つ願望ですよね 笑

 

 納得のキャラ設定、さすがですミステリーの女王✨

 

■目次■

   

アルファベット

「ABC殺人事件」あらすじ

 1935年6月、アルゼンチンの農場から一時帰国したヘイスティングズは、ロンドンにあるポワロのマンションを久しぶりに訪れます。

 

 以前と変わらず元気なポワロですが、自宅に届いた「ABC」を名乗る挑戦状に頭を悩ませていました。

 

 やがて、挑戦状にあった通り、6月21日にアンドーヴァーで殺人事件が起こります。
 地名と同じく被害者のイニシャルもA、そして現場には「ABC鉄道案内」が、アンドーヴァーのページを開いて伏せられていました。

 

 事件を「ABC」によるものとみなした警察は、ポワロに捜査協力を求めますが、犯人の手がかりはみつからないまま、同様の「B」と「C」の事件が起こります。

 

 最初のAの被害者は、飲んだくれの夫を持つ女性。続くBの被害者は浮気者の若い女性で、3番目のCの被害者は子どものいない資産家男性でした。

 警察が物証を追う中、犯人「ABC」の人物像について考えるポワロ。

 

 一方、とある場所では、アレグザンダー・ボナパート・カストという男性が、発作でときどき途切れる記憶と、世間が騒ぐ連続殺人事件との不可解な一致について、人知れず悩んでおり――。

 

「ABC殺人事件」感想

ミッシングリンクものの名作

 初めてこの作品を読んだときは、こういう先入観の使い方があるとは! と驚きました。

 

 解説の法月綸太郎によると、

本格ミステリの世界では、おもに連続殺人のケースで、いっけん無関係に見える被害者どうしを結びつける隠れた共通項を探していくものを、ミッシング・リンク・テーマと総称」するそうです。


 本作は、そのミッシングリンクものの代表作とのこと。

 

 もうひとつ。

 この事件の犯人は、とあるリスクをあえて負っているのですが(読者がみんな指摘したくなるやつです 笑)、その理由についても解説で説明されていて、すごくすっきりしました。


 とはいえ、気力体力コミュ力ありすぎで手際よすぎだろ犯人 笑

カットバック手法

 目次を開くとすぐ気づくのですが、本作、「ヘイスティングズ大尉の記述ではない」っていう独特な項目があるんですよね。それもいくつも。

 これはこの作品の特徴で、いつも通りヘイスティングズの手記形式ではあるのですが、途中で謎の人物に関する三人称の記述が入るのです。カットバック手法ですね。
 これについては、ヘイスティングズによる「まえがき」でもことわっています。

 

 そして、この謎の人物のシーンが、エグめの心理サスペンスになってるんですよね。読んでいて、もーやだ怖いー、ってなりました。

 でも、犯行の特徴から犯人像に迫っていたポワロは、そうしたエピソードも材料にして事件の真相に到達するのです。

 

 ポワロが、とある犯行の犯人像と容疑者とのギャップに気づき、現場に残った手がかりから得られる条件をそれに掛け合わせ、一気に真犯人に迫るシーンが、めちゃめちゃ納得で爽快でした!
 
 多分、あそこを読んだとき、脳内でドーパミン的ななにかが出ちゃってたと思います、わたし 笑

解説による、まさかの(他作品の)ネタバレに注意!

 前述した内容以外にも盛りだくさんで、すごく読みごたえのある本作の解説ですが。
 実は一点だけ、これから読む方に注意していただきたいことが。

 

 解説の途中に、この先ネタバレするので読了後に読んでね、と書かれた箇所があります。
 それ自体はよくあることで、まったく問題ありません。本編未読の方は言われた通り、その先は読まずに本編に進みましょう。

 

 だがしかし。

 その直後。


 どういうわけか、この解説、本編の内容について詳しく語ると同時に、別の作者の作品(G.K.チェスタトンの短編『折れた剣』)についてもネタバレしちゃっているのです!
 それも、そっちのネタバレについてはひとつも注意書きなしで!!

 

え、どゆこと?!

 

 ちょっと、法月せんせーと早川の編集の方ー!
 その本、この先読むの楽しみにしてたのに、トリック(というのかな? この場合)知っちゃいましたよー!(号泣)
(まあ、それでも読みますけどね 笑)

 

 というわけで、もしも『折れた剣』未読の方がいらっしゃいましたら、『ABC殺人事件』の解説には読み終わってから行かれることをおすすめします。


(ここだけ読むと、なにがなんだか 笑)

「ABC殺人事件」こんな人におすすめ

・ミッシングリンクもの(≒連続殺人事件)の代表作を押さえておきたい人

 

・ポワロとヘイスティングズのバディ感を楽しみたい人

 

・犯人のプロファイリングや心理サスペンスで、ハラハラドキドキ・すっきりしたい人

はじめての次回予告:G.K.チェスタトン「折れた剣」読みます!

 というわけで、こうなったらもう予定を変えて、次回は短編『折れた剣』が収録されているG.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』を紹介します! 笑
 
 クリスティーの年の離れたお兄さん世代? にあたる、同じイギリス人作家チェスタトンによる、名探偵ブラウン神父シリーズの第一弾となる短編集。
 
 よろしければぜひ、ご覧ください 笑