彼女がみずからの誕生パーティーの席で、シャンパンに入った青酸カリで亡くなってから、およそ1年。
同じレストランの同じ席に集まった当時のメンバーによる、ローズマリーの妹アイリスの誕生パーティーで、新たな事件が――。
原題は“Sparkling Cyanide”、1945年発表。

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「忘られぬ死」あらすじ
(「第一篇 ローズマリー」より)
美しいローズマリーは、夫や妹や友人たちに囲まれた自身の誕生パーティーで急死しました。
死因は、シャンパンに入っていた青酸カリ。
状況から自死とされましたが、若く裕福で結婚後も男性を惹きつけていた陽気な彼女は、まったくもってそんなことをするタイプではありませんでした。
パーティーに参加していた6人――妹のアイリス、夫の秘書のルース、ローズマリーの友人アンソニー、もうひとりの友人スティーヴンとその妻アレクサンドラ、そして夫のジョージは、それぞれに思いを馳せます。
風変わりな遺産、インフルエンザのあとの気分の落ち込み、一族のもてあましもの、不似合いな結婚相手と秘密の関係……。
そして、事件からおよそ1年後の万霊節、同じレストランの同じテーブルに同じメンバーが集まった、ローズマリーの妹・アイリスの誕生日パーティーで、新たな事件が――。
「忘られぬ死」感想
はじめにおことわりを:
恋愛ものが苦手な方にはおすすめできない作品です 笑
江戸川乱歩によると、本作は
「気の利いたメロドラマとトリックの驚異の組合せ」
とのこと 笑
(結城信孝による解説「クリスティー<黄金の12>」より。
結城氏のクリスティー作品ベスト1は本作だそうです)
第1篇は、前の年に起きたローズマリーの死亡事件に居合わせた6人、つまり、彼女の誕生パーティーの参加者(妹、夫の秘書、友人その1、その2、その妻、夫)たちの視点で構成されています。
その内容の半分以上が、色恋沙汰。( ←言い方よ)
もちろん、徐々に明かされる事件の様子や人間関係など、恋愛以外の要素もあります。
あるんですけど、
それはそれとして 笑、
ミステリーは好きだけど恋愛ものはあまり、という読者にはしんどい頻度で、ずーっと愛とか恋とかいってるんですよねー 笑
※恋愛ものが苦手な方におすすめできないミステリー・その1はこちら 笑
ただし、第1篇を単なる恋愛模様だと思ったら、すでに女王の仕掛けたワナの中です。
お気をつけて ♪
なお、続く「第2篇 万霊節」と最後の「第3篇 アイリス」では、ミステリーらしく話が大きく動いていきますのでご安心ください 笑
大人の愛憎に圧倒される作品
前述の通り、やたら色恋沙汰が多いこの作品。( 言い方)
中でもわたしの心に残ったのは、
嘘やすれ違いを重ねたカップルが、いろいろあって切羽詰まったところで、互いの意外な本心を知るエピソードでした。
たしかにねー。
そういうこともあるでしょうなー。
それが相性ってやつかもねー。
(なんか身も蓋もない感想ですみません)
この人たちって、きれいごとじゃないというか、読んでいていろいろとひっかかるというか、あまり感じの良くないカップルだったのです 笑
でも、そんなふたりの辿りついた場所は、なんとも美しく見えたんですよね。
(とはいえ、長い目で見れば通過点なので、その後もいろいろあるのでしょうが)
これは、以前読んだ若い頃には気づかなかった、この作品の良さだと思います。
ひとことでいうと、メアリ・ウェストマコットみが強いってことかなー 笑
\当初はクリスティーとは別のペンネームで発表/
短編「黄色いアイリス」との違い
短編『黄色いアイリス』がこの長編『忘られぬ死』になるにあたり、変わらず残った部分(=共通点)と変わった部分(=変更点)の主な内容は、以下の通りです。
○共通点
- パーティーで妻がシャンパンに入った青酸カリで死ぬ
- 妻が亡くなったあと、妻の年の離れた妹は、義兄である夫と一緒に暮らす
- 事件と同じ時期に同じメンバーを夫が集めて、事件を再現し、第2の事件が起こる
○変更点
- パーティーの参加者(長編では1人増え、関係も変わりました)
- 探偵役(長編にはポワロは出ません)
- 第2の事件の内容
- 真相
- 短編の冒頭ポワロにかかってきた電話は、長編では登場しません
また、内容と関係ないところで、
- 短編では亡くなった妻の名前がアイリス(残された妹の名前はポーリーン)、後日開かれたパーティーの席には黄色いアイリスの花が飾られていてタイトルにも
- 長編では妻の妹の名前がアイリス(亡くなった姉の名前はローズマリー)
という違いもあります。
(植物のローズマリーの香りは記憶力を強めるといわれているので、追憶の対象の名前にぴったりですね)
つかみが強いけど、それだけじゃない
パーティーだのシャンパンだの美貌の妻だのと、華やかな要素が多いこの作品。
(原題の“Sparkling Cyanide”=「発泡性の青酸カリ」というのも、シャンパンに入った青酸カリのことですよね 笑)
しかも、最初の山場=妻の死は、物語が始まる前にすでに起きていて、パーティーの参加者たちはそれぞれ秘密を抱えながら、事件について考えている。
そんなわけで、
本作はもとになった短編『黄色いアイリス』の時点で、すでにつかみが強い✨作品だったわけですが。
長編化にあたって、話の焦点や構造を変えると共に、原案とは別の真相を準備してるんですよね。
さらに磨いてきたのか、強いなー。
それだけに、短編よりこちらの長編の方が、犯行動機もトリックも面白かったです。
いやらしい伏線の張り方にも、くーーっとなりました 笑
動機と伏線とトリック
犯行動機はとてもわかりやすく、伏線はうまく張られすぎ。
うまいというか鮮やかすぎて記憶に残ったらしく、今回再読してもあちこちの伏線を覚えていて、そんな自分にびっくりしました 笑
そして、
それなのに真相を覚えていなかった自分に、さらにびっくり 笑笑
(伏線だけ覚えてるって 笑)
(だってツイストが! といいわけ)
\ちなみにこちらは真相まで覚えてた作品 笑/
ただ、トリックは。
こういってはなんですが、
本格が過ぎるんじゃないかなーと。
犯人目線だとちょっと愉快だし、理論上は実行可能だけど、
実行するのはタイミングとかいろいろ厳しいんじゃないかと思いましたが、どうかなあ……。
事件を複雑にした「ある要素」について
終盤、ある人物によって確認される、事件を複雑にした「ある要素」について。
あれって、カフェならまあ起こりうるけど、レストランだと誰かしら気づくのでは……。
ていうか、
自分が会食であれに気づかなかったら、
(ネタバレ防止に、ふわっとした書き方をしております 笑)
知らなかったある習慣
ネタバレ防止のためふんわりしか書けませんが、
第2の事件のある謎が、ある習慣を知っているとクリアできるんですよ。
知らなかったなー。
その直前までは自力(の推理)でわかったのに、そのせいで謎、解けなかったなー……。(しょぼん)
(悔しかったので、ここで訴えてみました)
レイス大佐と、(バトル警視に似た)ケンプ主任警部
前述の通り、短編と違いポワロは出ないこの作品。
探偵役は、もと陸軍情報部員のレイス大佐です。
『茶色の服の男』『ひらいたトランプ』『ナイルに死す』にも登場する、人気キャラクターですね。
一方、警察側の捜査担当者は、ロンドン警視庁のケンプ主任警部。
レイス大佐視点では、
「ケンプにはどことなく、あの老練の警部、バトルを思わせるところがある。事実、ケンプはかなりのあいだバトルの下で働いていたから(後略)」(p241)
とされています。
ちなみに、ここで言及されているバトル警視も、『チムニーズ館の秘密』『七つの時計』『殺人は容易だ』『ゼロ時間へ』と多くの作品で登場する人気キャラクター。
「一本の木を彫りこんでつくりあげたような」雰囲気で相手を油断させながら、実はできる男、っていうギャップがいいんですよねー。
「忘られぬ死」マンガも
この作品は、ドラマ化もされた大人気作『Papa told me』で有名な、漫画家・榛野なな恵によりコミカライズされています。
※本作『忘られぬ死』の他、『チムニーズ館の秘密』、『ゼロ時間へ』をもとにした3作が収録された単行本
\榛野先生の代表作/
「忘られぬ死」こんな方におすすめ
- 恋愛ものや人間ドラマが好きな方
- 本格ミステリーのファン(ただし恋愛ものが苦手な方を除く)
- 本作を原案の短編『黄色いアイリス』と読み比べたい方
- レイス大佐やバトル警視のファン
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪
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