その前夜に自死した彼の恋人は、何者かに脅迫を受けていたという。
姿を消した息子のラルフ、それぞれに秘密を持つ相続人たち、そして謎の脅迫犯。
ロンドンから引っ越してきたばかりの風変わりな外国人探偵・ポワロが、事件を調べ始める。
「アクロイド殺し」掟破りのトリック:クリスティー最高の問題作
ここまで、本作を含め3作続けて、ミステリー史に残るクリスティー作品、いいかえれば掟破りの作品たちを紹介してきましたが、
発表当時にルール違反ではないかとガチで大騒ぎになったことで有名なのが、今回の作品です 笑
1926年、クリスティーのデビュー7年目に出版され、イギリスでの探偵小説作家としての地位を確立したこの作品。
解説の笠井潔によると、発表されるやいなや、「英米の探偵小説界は賛否両論で沸騰」したとか。
否定派ではヴァン・ダイン、肯定派ではドロシー・セイヤーズの主張が知られているそうです。
実は、個人的には、小学生のときに図書館で本作(の、多分ジュニア版)を軽―い気持ちで手に取って、本棚の前で立ったまま読み始めたら、面白すぎて途中でやめることができなくなり、最後に犯人が明かされるくだりで心底ぞぞぞーっ! として、軽い貧血を起こした経験が……
という、トラウマ気味の一作でもあります 笑
「アクロイド殺し」あらすじ
金曜日の早朝、シェパード医師はフェラーズ夫人の屋敷に呼び出されます。
睡眠薬の飲みすぎで亡くなっていた夫人は、酒乱だった夫のフェラーズを1年前に亡くしたあと、村の名士アクロイドと交際しており、再婚間近と思われていました。
40代のアクロイドは過去に妻を亡くしており、妻の連れ子だった義理の息子ラルフを育てあげた今は、亡くなった弟の妻とその娘のフローラ、秘書や使用人たち、さらには滞在客のブラント少佐と共に、豪邸で暮らしています。
同じ日、シェパード医師はアクロイドに、相談したいことがあると夕食に招かれます。
また、隣に引っ越してきたばかりの風変わりな外国人ポワロから、ラルフが彼のいとこのフローラと婚約したと聞きます。
シェパードは村の宿屋に滞在していたラルフを訪ね、義父のことで悩んでいる彼に協力を申し出ますが、ラルフは首を縦に振りません。
美青年で友だちも多いラルフは浪費家で、半年ほど前に義父と大げんかして以来、村を離れていました。
その夜、アクロイド邸での夕食のあと、書斎でアクロイドと二人きりになったシェパードは、彼が前日フェラーズ夫人から、夫殺しを告白されたことを知ります。
夫人は1年前の殺人をネタにずっと何者かに脅迫されており、睡眠薬で自死したのでした。
シェパードがその話を聞いている最中に、アクロイドあてにフェラーズ夫人からの手紙が届けられます。
彼女が死ぬ前に書いたその手紙には、脅迫者が誰なのかを伝えると記されていましたが、肝心のその部分を読む前に、続きはひとりで読みたいとアクロイドは手紙を封筒にしまいます。
帰り道、シェパードは見知らぬ男にアクロイド邸への道を尋ねられます。
その夜遅く、自宅で電話を受けたシェパードは、アクロイド邸に駆けつけます。
アクロイドが殺されたという知らせを受けたと言う彼に、そんな電話はかけていないと驚く執事。
二人は鍵のかかった書斎をこじ開けて、アクロイドの様子をみようとします。
中では、アクロイドが刃物で刺されて死んでおり、フェラーズ夫人からの手紙がなくなっていました。
警察の捜査により、物証その他で容疑者となったラルフは、宿屋から姿を消します。
一方、シェパードの隣人ポワロは、引退したばかりの高名な探偵でした。
ラルフの婚約者フローラに調査を依頼されたポワロは、なにかとヘイスティングスを思い出させるシェパードに、調査に同行するよう頼みます。
彼の活躍により、関係者の様々な秘密が明らかとなりますが――。
「アクロイド殺し」感想
「アクロイド殺し」
主人公はヘイスティングズ+ワトソン?
残念ながら今回も、ポワロの相棒・ヘイスティングズは出てきませんが、どことなく彼を思い出させる男性、しかもシャーロック・ホームズの相棒ワトソンと同じ医師という、シェパード医師が語り手となります。
この人、穏やかでちょっとかわいらしい印象の中年男性なんですよねー。
同じく独身の8歳上のお姉さんと同居しているのですが、噂好きでやたら口の立つ姉に頭が上がらないのです。
慎重で女っ気がなくて、趣味は精密機械いじり。胃痛から膝の痛みにお産まで、村人たちの訴えを一手に引き受けるお医者さんです。
作中、この姉弟とお客さん二人で麻雀をして、シェパードがすごくいい配牌に舞い上がってしまうシーンがあるのですが、もしかしたらあれは、事件に特殊な関わり方をした彼の不思議な運命を表していたのかも。
隣人はツンデレ名探偵
事件の直前にシェパード家の隣に引っ越してきたポワロは、探偵業を引退してカボチャ作りに励むつもりでしたが、退屈のあまり調査を引き受けてしまいます。
アルゼンチンに移住した相棒のヘイスティングズを恋しがる彼は、シェパードにヘイスティングズと似たところを見出して、「運命ですな」なんて言って喜びます。
だけどその似てるっていう部分が、無謀な投機に手を出したエピソードとかで、ちょっとこう、馬鹿にしてる感じなんですよねー 笑
とはいえ、「その愚かささえ、今じゃ懐かしいほどですよ」とも言ってます 笑
過密スケジュールにもほどがある!
再読して気がつきましたが、この作品、展開がすごく早い!
これまで紹介してきた『そして誰もいなくなった』や『オリエント急行の殺人』と違って、物語がシェパード医師の一視点で進むせいもありますが、小さな村だというのにしょっちゅういろんな人と会ったりうわさ話を聞いたりしてて、1行たりとも目が離せない。
(伏線も山盛り)
特に、殺人事件が起こってからは、ページをめくる手がとまりません。
小説の冒頭が金曜日の早朝で、ラストは次の週の土曜の早朝。
つまり、作品内で流れる時間はほんの8日あまりなのですが、毎日スケジュールぎゅうぎゅう詰めで、ポワロとシェパードがまた、やたらとフットワークが軽いのです。
探偵業に慣れたポワロはともかく、医者の仕事もあるのになんでそんなに元気なんだシェパード 笑
なかでも初日、いろいろありすぎ! 笑
「アクロイド殺し」こんな人におすすめ
ずばり、どんでん返し好きさんにおすすめです。
(あと、麻雀好きさんにも 笑)
「どんでん返し」って、読む前に聞くとつい身構えちゃうから、本当はあまりお伝えしたくないのです。
とはいえ、このお話はおそらく、ミステリー界で一、二を争う有名どんでん返し作品。さすがに書いちゃってもいいかと 笑
ポワロがシェパードの知らない単独行動をするなど、推理が難しい作品ではありますが、われこそはと思う方は、どんでん返る前にぜひ自力で犯人をみつけてください。
惜しくもみつけられなかった方には、謎解きパートで存分に裏切られて、かつてのわたしと同様、ぞぞぞーっ! としてほしいです 笑
もっと!「アクロイド殺し」を楽しむ方法
ここまで読んで、もはや、衝撃のトリックにぞぞぞーっ! とする気まんまんのみなさまへ。
さらにこの作品を楽しむ、おすすめ方法を。
このお話は、ぜひとも! 聴いてみてほしい!!
前述の通り、このお話、シェパード医師が語る形なんですよ。
そしてこれまた前述の通り、このお話、読むとぞぞぞーっ! ってなる、歴史にその名を刻むどんでん返しのレジェンド作品なんですよ。
しかも、ナレーターはシェパード医師のイメージに合う、落ち着いた声の男性!(前田弘喜さん)
こんな、シェパード医師が語ってるとしか思えない、超どんでん返し作品、イヤホンで直接耳に注ぎ込まれたら!
ぞぞぞぞぞーっ!! ってなるに決まってる!!
めっちゃ楽しいじゃないですか!!
既読のみなさまも、ご一緒に!
聴いたあとは、絶対また小説を振り返りたくなるから(どんでん返されあるある 笑)、そこで今度は「読めば」よいのです。
今度は目で読んで、改めて、ぞぞぞーっ! てなればよいのです! (何回言うねん)
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
次回はついに! ヘイスティングズの登場する作品を取りあげます。
よろしければ、またお読みいただけると嬉しいです。
みなさま、どうぞ楽しい物語体験を♪