そのひとりである「僕」こと「チョモ」は、日常のすべてを覆っていた違和感に気づいた今、ある殺人事件の“真実”を白日の下に晒そうと――。
第47回日本推理作家協会賞 短編部門受賞作。
結城真一郎の人気作『#真相をお話しします』を読みました。
収録された5編の中で頭ひとつ抜けて面白かった、最終話(第5話)の『#拡散希望』を中心に紹介します。
\読みたい項目へGo ♪/
短編「#拡散希望」あらすじ
冒頭、
「いまから僕は、ある殺人事件の“真実”を白日の下に晒そうと思っています」
と「撮影」を始める、小学6年生の「チョモ」
話は、彼が小3だった3年前の夏休みにさかのぼります。
ゲームやスマートフォンが禁止され、テレビの視聴時間も管理されるという家庭ですが、それを特に不満にも思わず楽しく暮らす、小学3年生のチョモ。
世界一の子どもに育つようにと「チョモランマ」と名づけられた彼は、生後まもなく両親と共に、長崎市の西の沖合80キロにある小さな島・匁島(もんめじま)に移り住み、島に3人しかいない同級生の凛子(りんこ)・砂鉄(さてつ)・口紅(ルージュ)と共に育ちました。
ある日、島を訪れた若い男性が、長崎市内に戻った直後に殺されるという殺人事件が起こります。
ピンク色のモヒカンという特徴的な髪型だった彼と、島で会ったはずのチョモたちですが――。
短編「#拡散希望」感想
離島に住むピュアな小学生男子の一人称、という設定が、とても効いていたと思います。
ネットやバラエティ番組のない環境で育つ、まだ反抗期を迎えていない小3(その後小6)男子、という視点に、すっかり同化して読んでいたため、まんまとミスリードにもはまり、作中明かされる「真相」にびっくり仰天してしまいました。(面白かった!)
一人称とはいえ、本文の語りは語彙からなにからほぼ大人のものなのですが 笑、主人公の「チョモ」が、幼いけど賢く、とても好感度の高いキャラなので、ついつい見守り目線で読んでしまうんですよねー。
また、実際に起きている社会問題を考えると、他の4話とは違って、残念ながら現実にありえそうな話というのも、素直に驚けた要因だと思います。
そして、先にも述べたように、主人公が素直というかおっとりしているので、彼の目を通して見た小さな島での生活がとても魅力的。
長崎の強い陽射しにきらめくような日々と、殺人事件が引き金となった不穏な空気の対比がきいていて、短い映画を観たようなインパクトがありました。
文庫本で43ページの短編ながら印象深い作品で、さすが第74回日本推理作家協会賞短編部門受賞作(2021年)だと思いました。
なお、本作の初出は「小説新潮」2020年2月号です。
短編集「#真相をお話しします」内容とおすすめの楽しみ方
短編集『#真相をお話しします』収録作品(2022年出版、2024年文庫化)
収録された5編のタイトルは以下の通り。
すべて雑誌『小説新潮』で2019年~2022年に発表されています。
- 第1話 『惨者面談』:アンソロジー『本格王2020』にも収録
- 第2話 『ヤリモク』:アンソロジー『嘘があふれた世界で』にも収録
- 第3話 『パンドラ』
- 第4話 『三角奸計』:リモート飲み会がモチーフ
- 第5話/最終話 『#拡散希望』:2021年第74回日本推理作家協会賞短編部門受賞、『ザ・ベストミステリーズ2021』にも収録
どれも非常にあざといというか興味を惹かれる、秀逸なタイトルですよね 笑
本作とは別に収録された、アンソロジーの方も面白そう!
『#真相をお話しします』内容
収録された5編は、連作ではなく、どれも単独で完結した短編なので、どこから読んでも大丈夫です。
また、以下の点が共通しています。
- 主人公の男性による一人称
- 複雑なあらすじが、読みやすくわかりやすく描かれている
- 現代的なモチーフが使われている
- 日常に潜んだ「なにかがおかしい」という違和感を解き明かす構成
- 後味が悪い
第1話~第4話は、スレたミステリーファンには伏線がわかりやすいかもしれません 笑
現実味の薄い展開という共通点も。
最終/第5話は、ミステリーとしての明確な構成と、
「(いやすぎる話だけど)現実でありえなくはない」
という救いのないリアルさ、そしてトリックと設定が、他の4話より魅力的でした。
「#真相をお話しします」おすすめの楽しみ方!
先に述べたように、収録されている5作はどれも、さくさく読める短編です。
伏線はわかりやすく、テーマは現代的。
とくれば、これは「聴く読書」向き!
オーディブルとミステリーって、正直、相性があると思うんですよ。
長かったり、構成が複雑だったり、登場人物がたくさんいたり、っていうミステリー、個人的には大好き!です。
が、「聴く読書」の場合、最初の方のエピソードは忘れてしまいがちですし、紙の本に比べると、ページをさかのぼって読み返すのも難しいですよね……。
\と思ったら、やはりオーディブルがなかった『十角館』/
その点、この本の収録作はどれも、わかりやすい構成で、しかもコンパクト。
通勤・通学の電車内など、ちょっとした時間に1話ずつ聴いて、しっかり楽しめます。
どれも、タイトルからしてほの暗い雰囲気なので、イヤミス好きさんには特におすすめ 笑
日常の中でさくっと聴いて、読後「うわー……」ってなるのはいかがでしょうか 笑
聴き終わったら、見慣れたまわりの世界が、平和でありがたく感じられそうです 笑
映画「#真相をお話しします」(2025年4月25日公開)
公式YouTubeが楽しい! 原作者登場!
まさかの原作ネタバレ注意!
コミカライズ「#真相をお話しします」
「#真相をお話しします」こんな方におすすめ
○最終/第5話の『#拡散希望』は、どなたにでも。
スレたミステリーファンも驚ける、青春イヤミスの傑作だと思います。
○第1話~第4話は
- まだあまりミステリーを読み慣れていない方に。
題材も文体もとっつきやすくて、新鮮に楽しんでいただけると思います。
\読みなれていない方には、こちらもおすすめ/
- 変化球になりますが、本格ミステリーを書きたい方の教科書がわりにいかがでしょうか?
キャッチーな題材とわかりやすい日本語に、目をくらまされそうになりますが、実はどれも、きちんきちんと伏線の貼られた、「読者に文句を言わせない」どんでん返し構成なんですよね。
○映画を観る前に、予習がわりに読まれるのも楽しいかも。
スマホは記事下・PCは記事横の
⇒「カテゴリー」
⇒各項目の右端にある