「グリーン家殺人事件」S・S・ヴァン・ダイン ~榎木津ファンにもおすすめ名探偵ファイロ・ヴァンス(個人の感想です)~

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ニューヨークの一角に建つ名門グリーン家の古い屋敷では、下半身不随の気難しい老妻と5人の子らが、先代当主の遺産を相続するために、反目し合いながらも遺言通り同居していた。
例年より早く雪の積もった11月の夜、長女と三女が自室で何者かに撃たれ、玄関に謎の足跡が残されるという事件が起こる。
長女は即死、養子である三女は一命をとりとめたが、その後も事件は続いた。
名探偵ファイロ・ヴァンスが、地方検事のマーカムと共に調査に乗り出す。
 

 
 S・S・ヴァン・ダインが1928年に発表した長編『グリーン家殺人事件』を紹介します。
 

 名探偵ファイロ・ヴァンス(と、彼の活動を記録する、作者と同名の語り手ヴァン・ダイン)シリーズの第3作。

 

 なお、前2作については、作中で触れることはありますが、未読でも問題ありません。

 
      \読みたい項目へGo ♪/
■目次■
 
グリーン家アイキャッチ

「グリーン家殺人事件」あらすじ

 例年より早く雪の積もった11月8日の夜、ニューヨークにある名門グリーン家の古い大きな屋敷で、長女のジュリア末の娘のアイダが自室で何者かに撃たれているのがみつかりました。

 玄関前には足跡が残っており、警察では強盗事件とみなし捜査を始めます。

 

 地方検事のマーカムは、同家の長男に頼まれて事件を調べに現地に足を運ぶことに。

 友人の探偵ファイロ・ヴァンスも、代理人のヴァン・ダインと共にマーカムに同行しました。

 

 グリーン家の先代の当主は変わり者の資産家で、彼の死後も屋敷に25年間住み続けることを遺産相続の条件にしていました。

 そのため、彼の年老いた妻と、養子のアイダを含む5人の子どもたちは、互いに憎み合いながらもひとつ屋根の下で暮らしていたのです。

 

 下半身不随の母にかわって家を切り盛りしていた長子のジュリアは、40代はじめの独身女性。

 自室のベッドで、正面から撃たれて死んでいました。

 

 20代前半の三女のアイダは、兄姉たちにかわって看護婦と共に気難しい母の介護をしていましたが、自室で背後から撃たれて床に倒れているところを発見されました。

 翌朝意識を取り戻してからは、家族のかかりつけ医フォン・ブロンの治療を受けています。

 

 尊大な長男のチェスターは40歳前後、活発で率直な二女のシベラは30歳前、学者肌で神経質な二男のレックスは20代後半。


 彼らは4人の使用人たちに身の回りの世話をされながら、屋敷の2階にあるそれぞれの部屋で暮らしています。

 

 まもなく、第2の事件が起こり――。

「グリーン家殺人事件」と作者S・S・ヴァン・ダイン

S・S・ヴァン・ダイン:
名探偵ファイロ・ヴァンスと相棒のヴァン・ダイン(作者と同名)、「ヴァン・ダインのニ十則」

 作者のS・S・ヴァン・ダインは、1887年生まれのアメリカ人(本名はウィラード・ハンティントン・ライト)

 美術評論家として活動したあと、1926年に長編『ベンスン殺人事件』(ファイロ・ヴァンスシリーズの第1作)でデビューします。

 

 \『ベンスン殺人事件』のデビュー年の話はこちら/

 

 \『ベンスン殺人事件』と同年に発表され、ヴァン・ダインが異議を申し立てたとされる、お騒がせ作品はこちら/

 

 彼が書いた長編は、名探偵ファイロ・ヴァンス(ただし語り手のヴァン・ダインによればこれは仮名)が活躍する12作品のみ。

 今回の記事で紹介している『グリーン家殺人事件』は、シリーズ第3作です。

 

 このシリーズのユニークなところは、

 語り手が作者と同じヴァン・ダインという名前ながら、黒子に徹しすぎているところ 笑

(エラリー・クイーンとは全然違いますね 笑)

 

 作中のヴァン・ダインがあまりにも控えめな上、周囲も彼を空気扱いなのです。

(それとも、実際はもっと会話に参加しているけれど、文字に起こすとき本人がカットしている、という設定なのでしょうか?)

 

 たまに誰かが「ヴァン」と呼びかけるシーンがあると、読んでいてほっとしました 

(あ、ちゃんと周囲に見えてるんだ、無視もされてないんだ、よかったー、みたいな 笑)

 

 そんな控えめキャラのヴァン・ダインとは違い、作者のS・S・ヴァン・ダインの方は、なかなか主張の強い人だったようです。

「ヴァン・ダインのニ十則」と呼ばれる、ミステリーを書くときのルールを提唱したことで有名です。

 

(長いのでこのブログでは「ニ十則」の内容は説明しませんが、知りたい方には小学館のサイト「小説丸」での紹介記事がわかりやすくておすすめです)

 

 さて、このニ十則、わたしも読んでみたのですが……。

 

 ……えーと。

 

 

 ツッコミ待ち? 笑

 

 

 これってつまり、ヴァン・ダインによる、

 

「俺の考えた『こんなミステリーはイヤだ二十条』」

 かな? 

 

 という印象でした。

 

 

 ……えーと。

「則」って付いてると、なんだか権威を感じますが、実際のところ、この文章に特に根拠はない……のですよね?

 

(違うのかな?)

(あまりこういうことに詳しくないもので、感情を害された方がいたらごめんなさい)

 

 とりあえず、S・S・ヴァン・ダインが、読者とのフェアな知的ゲームとしてのミステリーを深く愛する人だったことはよくわかりました! 笑

「館(やかた)もの」の確立

 本作『グリーン家殺人事件』によって、

 

  • ドロドロした一族の屋敷で起こる連続殺人事件を

 

  • 探偵が解決

 

 という、いわゆる

「館もの」のテンプレート

 が完成したとされています。

 

 本作の影響を受けた小説の、有名なものではこんな作品が。

 

(1)エラリー・クイーン『Yの悲劇』

 

 

 これは非常にわかりやすいケース。

 作者クイーン(合作なので二人いますが)は、S・S・ヴァン・ダインと同じアメリカの作家。

 本作の5年後に発表された作品です。

 

 \クイーンの説明や別のシリーズ作品はこちら/

 

 \ヴァンとエラリイが登場する日本の人気作品はこちら/

 

(2)横溝正史『犬神家の一族』

 

 

 これもわかりやすい。

 ていうか、よりエグく、怖く、陰惨になってますよね。(あの覆面とか! 笑)

 個人的には、『グリーン家殺人事件』もこれくらいおどろおどろしく描き込まれていれば、「雰囲気が怖いよー」と感じられただろうなと。

(でも、もしもそこまで怖かったら、怖がりのわたしには読めなかったかも……)

 

(3)小栗虫太郎『黒死館殺人事件』

 

 

 この作品はまだ読んでいませんが、とにかく濃厚らしいですね 笑

 こちら ↓ のミステリー案内で、「ミステリ三大奇書」として取り上げられていた作品です。

 

 『黒死館殺人事件』も『グリーン家殺人事件』も紹介しているミステリー案内

「グリーン家殺人事件」感想

案外好きでした、ファイロ・ヴァンス:
「榎さん」ファンにもおすすめ

 いろいろなところで「ファイロ・ヴァンス、ウザい(※とらじによる意訳です)とされていたので、結構微妙な気持ちで読み始めた本作ですが。
 
 実際に読んでみたところ、
 
ファイロ・ヴァンス、
結構好きでした、わたし 笑

 

 たしかに話は長いけど、思ってたほどじゃないし 笑

 ホームズと違って、ていうかシリーズ初めの頃のBBCドラマのシャーロックと違って、

 ちゃんと人に気を使えるじゃないですか、ファイロ・ヴァンス。

(比較の対象が特殊 笑)(ファンの方ごめんなさい)

 

 このキャラで、スリムで教養豊かなツンデレイケメン貴族・34歳。お金持ちで女性問題はなく、仕事ができて友だちもいる。

 え、アリ寄りのアリでは?

 

 と思ったのは、わたしがまだファイロ・ヴァンスシリーズの他の作品を読んでいないからかもしれません。(もっとウザいエピソードがあるのかも)

 

 あるいは、わたしが京極堂シリーズの榎木津礼二郎ファンだからかもしれません……。

 

 \榎さんに興味がわいた方はこのシリーズへ ♪/

 

 とはいえ、さすがに終盤はイラつきましたけどね。

 ヴァンス、犯人の説明引っ張りすぎ

 結果、人が殺されすぎ 笑(わろてるばあいか)

 

 最後の方は、

 

「もうさー、ファイロ・ヴァンスさー、

 自分が納得する・しないはいいから、さっさとみんなに犯人教えよう?

 守れるんなら守ってやんなって、被害者ー」

 

  とか、ぶつぶついいながら読みました 笑

 

 

 そういえば、読み終わって、「うーん……」となったことも。

 

 いまさらですが、案外難しいものなんですねえ、

「連続殺人事件」と「名探偵」の両立って 笑

 

 殺人が少ないと読者の興味をひく「連続」にならないし、

 かといって多いと、

「こんなに死なせといて、いまさら謎を解かれても……」(←ヴァンスはここ 笑)

 って読者に思われるし 笑

人間ドラマとトリック

 本作は、小説として読む分にも面白い作品でした。

(でも、よくいわれている「不気味」とか「陰鬱」な雰囲気は、わたしにはそこまで感じられませんでした)

 

 特に、クソ根性悪いミセス・グリーンが人の神経逆なでして巻き起こすもめごとドラマ!

 ほんと、イライラするな―あの人!(怒)(←作者の思うつぼ 笑)

 高齢化の進む現代日本で、絶賛介護中の読者のヘイトをためること間違いなしの逸材です 笑

 

 小説の内容とは関係ありませんが、どうして「登場人物」の一覧ページに載ってないんでしょうね、あのお母さんの名前。重要人物なのに。

 

 そして、ミステリーとしては、「平穏な表情」のトリックが面白かったです。

 

 あと気になったのが、の処理方法。そんなんで、ほんとに大丈夫……?

 

 ついでにいうと、作中何度も出てくる遺伝の話については、そういう時代だったとはいえ、現代の読者には興ざめだなと思います。(仕方ないけどばっさり)

ヴァン・ダインの存在感問題

 これまたあちこちでいわれていることですが、ていうかわたしも書きましたが。

 

 語り手のヴァン・ダインの影が、薄すぎて! 笑

(彼はファイロ・ヴァンスの召使いではなく、ハーバード大での学友で、法律上・財務上の専属代理人です)

 

 読んだ人、きっとみんな思いましたよね。

 

 もうこれ、

 三人称では、だめでしたか?

 って……(震笑)

 

(ごめんね語り手のヴァン・ダイン 笑)

「グリーン家殺人事件」こんな方におすすめ

こんな方におすすめ

  • 「館もの」の古典が読みたい
  • 名探偵ファイロ・ヴァンスに興味がある
  • 語り手ヴァン・ダインに興味がある:他に類をみない控えめすぎる語り手、一読の価値はあります! 笑

「十角館の殺人」ファンにも:ニックネームの作家、紹介完了

 今回の記事で、綾辻行人『十角館の殺人』に出てきたミステリ研究会メンバーのニックネームとなっているミステリー作家を、全員このブログで紹介することができました。

 

 \『十角館の殺人』紹介記事はこちら/

 

 駆け足でしたが、一応あの作品に出てきた作家全員を知った今、「十角館」の登場人物たちの性格は、ニックネームの作家のキャラクターとうっすらリンクしていたのかな、とも感じます。

 

 綾辻先生のおかげで、ミステリー黄金期の作品をたくさん読めたので 笑 以前作った「ミステリー年表」の改訂版を、そのうちまとめてみようかなと思っています。

 

 \以前作ったへっぽこ年表はこちら/

 

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪ 

 

 

☆この記事では以下のサイトを参考にしました。

 

○「物語良品館資料室」

2021年9月25日「本格ミステリの王道!館ものミステリー【昭和篇】」

 

○「日本経済新聞」電子版

2011年1月11日ミステリー評論家 千街晶之「別名S・S・ヴァン・ダイン ジョン・ラフリー著 才気溢れる作家の栄光と挫折」

 

○小学館「小説丸」

2018年5月16日

「【クイズで学ぼう!】『ノックスの十戒』って?書き手なら知っておきたい推理小説のルール」

 

 

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