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「水の眠り 灰の夢」桐野夏生:廃墟と憧れのイメージが濃縮された青春ハードボイルド・「村野ミロ」シリーズスピンオフ

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 初の東京オリンピックを控えた1963年東京。

 幼い日に戦争で失った自宅と家族の記憶を抱き、ゴシップ誌契約記者「トップ屋」として活躍する29歳の村野善三は、連続爆破・脅迫犯「草加次郎」事件と、女子高生殺害事件に巻き込まれ――。

 高度成長期に起きた実在の未解決事件を題材に、村野ミロの出生の謎が明かされる、熱い人間ドラマでいろどられたハードボイルド作品。

 1995年発表。
 

 

 \わたしはこちらで読みました/

 

 日本の女性探偵ハードボイルド作品の草分けとされる、人気作「村野ミロ」シリーズの第3作はスピンオフ。
 
 シリーズ本編主人公・村野ミロの義父、「村善」こと村野善三(むらのぜんぞう)を主役に、戦争や安保闘争の記憶がまだ色濃く残る60年代東京を駆け抜けた、若者たちの姿が描かれます。
 
 実はこちら、わたくしとらじのシリーズイチ押し作品
 
 あの村野ミロの出生の秘密を知りたい方も、ぜひどうぞ!
 
 

※シリーズ第1・2作の紹介記事はこちら

 
      \読みたい項目をタップ/     
 

水の眠り灰の夢アイキャッチ

「水の眠り 灰の夢」あらすじ

 初のオリンピック開催が迫る、高度成長期真っただ中の1963年東京。

 9月5日(木)夜8時過ぎ。
 ゴシップ誌『週刊ダンロン』特約記者の村野善三は、地下鉄銀座線の京橋駅で爆弾テロ事件に遭遇します。
 
「トップ屋」と呼ばれるスクープ記者として活躍する村野は、事件が世間を騒がす連続脅迫・爆弾犯「草加次郎」によるものとみて、調査を開始。
 
 村野の所属するライター集団・遠山プロでは、同期の後藤伸朗が退職する上、代表の遠山良巳(とおやまよしみ)が何らかの理由で暴力団に脅されていました。
 
 大学時代からの友人である後藤が事前に相談してくれなかったことに、村野はショックを受けます。
 
 後藤の恋人の早重(さなえ)を巡って、村野と後藤は複雑な三角関係でもありました。
 
 一方警察は、草加次郎が吉永小百合に送りつけた脅迫状の対応でおおわらわ。
 
 忙しい村野ですが、親代わりに育ててくれた長兄夫婦の頼みで、年の離れた弟のような甥の卓也を外泊先の葉山から連れ戻すために車で出かけます。
 
 高校2年生の卓也がいたのは、白樺派の有名作家・坂出公彦(さかいできみひこ)の息子で、デザイナーやカーレーサー、モデルとしても活躍する、坂出俊彦(としひこ)の自宅でした。

 派手な夜遊びグループ「六本木族」の一員である坂出の家は、父の公彦の屋敷の広い敷地内にある洋風の離れ。
 
 中では、薬物で酩酊した全裸の少女をサーフボードに乗せて担ぐ「空中サーフィン」など、有名人たちも参加した馬鹿騒ぎが繰り広げられていました。
 
 危険なパーティーからようやく連れ出した甥の卓也は、村野にタキという少女を一緒に東京に連れて帰ってほしいと頼みます。

 卓也が坂出の屋敷で知り合ったというタキは、サーフボードに乗せられていた少女でした。
 
「あたし、お人形だから」(p99)
 という17歳のタキは、父や兄に殺されるから自宅には帰りたくないといいだし――。

 

「空中サーフィン」のくだりでは、『黒蜥蜴』の「宝石踊り」を連想しました……。

「水の眠り 灰の夢」感想

若者たちの胸アツドラマとハードボイルド

 まだ人にも街にも戦争や安保闘争の傷が残ったまま、初のオリンピック開催に向けて急激に変わっていく、60年代前半の東京が本作の舞台。

 

 銀座の街並みや本所の町工場、新宿2丁目のバーや歌舞伎町の深夜喫茶などを背景に、

  • 主人公の村野を取り巻く胸アツ人間ドラマ
  • 連続爆弾テロ女子高生殺人事件という2つの謎

 が描かれます。

 

 まだギリ20代とはいえ、村野の無茶な仕事ぶりや飲み方に、読んでいるとこっちまで疲れを感じました 笑

 そういうハードボイルドはいらんて 笑

 

 その分(?)、対照的なラストの爽やかさには胸を打たれます!

見てきたように60年代東京とトップ屋たちを描く、作者・桐野夏生

 1963年の東京の街や、トップ屋たちの仕事ぶりが生々しく描かれたこの作品。

 

 ですが、作者の桐野夏生は、1963年当時はまだ小学生。

 東京にも住んでいなかったそうで、びっくりしました 笑

 

 ※見てきたように作者の知らない時代を描いた人気ミステリーといえばこちら

 

 また、本作では実在の「草加次郎」事件だけでなく、実在した「トップ屋」たちも題材にしています。

 

 井家上隆幸の解説によると、「遠山軍団」とそれを率いる遠山良巳のモデルは、ルポライターから「トップ屋」と呼ばれるようになった梶山季之と「梶山軍団」

 

 梶山たちが活躍し、やがて「傭兵」であるトップ屋たちが姿を消したのが、『週刊文春』だとか。

 

 その『文春』を擁する文藝春秋社からこの作品が出版されているというのが、面白いですよね。

 

魅力的なキャラたちと青春模様

とらじの推しは、主人公・村善!

 シリーズ本編では、主人公・村野ミロの義父で腕のいい調査屋(を引退したばかり)の、余裕たっぷりのおしゃれシニア村善。

(そっちはそっちでかっこいい 笑)

 

 本作での彼は、恋に迷いトップ屋家業に燃える、ひとり暮らしの29歳。

 まだ余裕はないけど、人としてまっとうでストイック、一本気でかわいげのある好青年です。

 

 睡眠(とお風呂)時間を削ってスクープをものにし、アホみたいなペースでアルコールとタバコを消費しながらも、自分の原風景は戦争で廃墟となった自宅だと、喪失感を抱え続ける村善。

(かわいそう)

(それはそれとして、ごはんはちゃんとお食べなさい)

 

「そうか、おれの芯はあの廃墟なのかもしれない」(p123)

 なんていってしまう村善。

(かわいそう!)

 

 どう見ても厄介な女子高生タキに、空襲で死んだ3つ下の妹の千代子を重ねてしまう村善。

(優しい!)( え?)

 

 両親を亡くした小学生の頃から、ききわけがよく長男っぽい(三男なのに 笑)、なんとも安定感のある村善。

 ですが、助けてもらった後藤の車から降りちゃうシーンは、素直というかコドモでかわいらしいです 笑

 

 そして、本筋とはあまり関係ありませんが、p224のあのシーン。

 若者✨って感じで、同じくらいの年頃に転職経験のあるわたくしとらじ、ぐっときました。

スタイリッシュ後藤

 村善の親友(といってもいいはず)で、とにかくかっこいい後藤

 

  • どんな状況でも「いいもの」を見分ける目があって、
  • その「いいもの」を手に入れることに躊躇がなく、
  • さらっとものにする姿がかっこいいからモテて、
  • 結果また「いいもの」に出会う、

 

 ……という、正のスパイラルな(そして実家がやたら太そうな)後藤。

 

 29歳とは思えないくらい、いや、遠山プロに入った大学院生(修士)の頃から、スマートで世慣れちゃってる後藤ですけど。

 イケメンって昭和の頃からいい匂いがするんだなー、と思わされる後藤ですけど 笑

 

「灰とダイヤモンド」のくだりは、バカだなあと思いました。

 かっこつけすぎ、守りすぎ。そういうときは、怖くても今日まで自分を守ってきた殻を捨てて、変わらなきゃ。

 

 でも辛いなー。

やばい早重

 早重は村野の手に負える女じゃない。

(村善ごめん)

 

 あとはあのp379、やりたい放題だなっていうか、ああいうことができるなら、この人は安心だなと思いました 笑

 そしてあの人は、やられっぱなしだろうなと 笑

 

(ネタバレ防止にふわっとした書き方をしております)

 

 ……なのになんで、あの『ローズガーデン』~?!

気持ち悪いキャラ描写も、うまい~

 タキの兄の仁の幼稚なところとか、中央署の市川刑事の横柄なところとか、気持ち悪くていや~なやつの描写がうまいですね!(イヤー!)

ミステリーとして:とにかく読後感がいいし、村善いいやつだからぜひ読んで!

 本作に出てくる「草加次郎」事件は、実在の未解決事件

(被害に遭った方々、お気の毒です……)

 

 フィクションとして、大胆に想像を膨らませて事件や犯人像を作り上げたこの作品、説得力がありました。

 

 事件の根底にある問題は、作中から60年以上たった今も続いているのが辛い。

 歌舞伎町の家出少年少女が薬物依存なんて、現代と完全一致。

 

 それはそれとして、

 

 いい加減にせえ、卓也。
(急な説教 笑)

 

 作品全体でみると、

 

  • 村善にまつわる大小さまざまな事件が同時に発生して、謎の筋道が追いにくかったり、
  • 偶然が多すぎたり(〇ナンか〇田一君な 笑)

 

 という部分はありましたが、面白かったから全然許容範囲です 笑

 

 ひどくて悲しい事件なんだけど、

 

  • それを追いかける村善とまわりの人間のドラマがアツいし、
  • 真相は意外だし、
  • 謎解きはかっこいいから!

 

 そして、

 

 とにかく読後感がいいから!

 

 シリーズ本編とはほぼ関係ありませんが 笑、みんなぜひ読んで!

「水の眠り 灰の夢」こんな方におすすめ

  • 青春ミステリーが好きな方(と書いたけど、29歳って青春に含まるのだろうか?)(でもめっちゃ青春)

 

  • ハードボイルドが好きな方

 

  • 熱い人間ドラマが好きな方

 

  • 村野ミロシリーズファン(特に、村善ファンと、ミロの出生の秘密に興味のある方)

 

  • 桐野夏生ファン

 

 

 

 

 ※作中、こちらの作品への言及があります。

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 \シリーズ第1作の紹介記事/

 

 \シリーズ第2作の紹介記事/

 

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪

 

 

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