「顔に降りかかる雨」桐野夏生:祝・村野ミロシリーズ完結!ヒロインが90年代新宿で探偵を始める第1作

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 ――1週間で、消えた1億と親友を探しだせ。

 親友の耀子が、恋人の成瀬という男から預かっていた暴力団の金と共に、姿を消したという。

 夫を亡くした過去に苦しむ32歳のミロは、知り合ったばかりの成瀬と共に、耀子の行方を追うはめに。

 日本の女性探偵ハードボイルドの先駆けとなった、1993年度江戸川乱歩賞受賞作。

 

※わたしは手元の1996年版文庫で読みました。

 

 

 大変だ~!

 

 あの

「村野ミロシリーズ」が、

 

完結した~!

 

 

 \最新・最終作はこちら/

/帯には「最後の闘い」「シリーズ最終」とあるけど、あのラストでほんとに終わりなんだろうか……\

 

 

とりあえず
おめでとうごさいます!

 

 

 というわけで今回は、

 シリーズ第1作・江戸川乱歩賞受賞作『顔に降りかかる雨』をご紹介します。

 

       \読みたい項目をタップ/

■目次■

 

顔に降りかかる雨アイキャッチ

「顔に降りかかる雨」あらすじ

 主人公の村野(むらの)ミロは、32歳の女性。

 

 インドネシアのジャカルタで夫の博夫(ひろお)が無残な亡くなり方をしたという、辛い過去があります。

 

 勤めていた広告代理店を辞めたミロは、父の善三(ぜんぞう)が探偵事務所を開いていた新宿2丁目のマンションの12階で、うつろな気持ちのままひとり暮らしをしていました。

 

「いやな夢を見ていた。」

 で始まる冒頭、午前3時前にかかってきた電話で、ミロは悪夢から目覚めます。


 夫の死を告げられたとき以来、真夜中の電話には出ないことにしているミロは、鳴り続ける電話を放置します。

 

 翌朝、ミロは親友・耀子(ようこ)の交際相手だという成瀬(なるせ)から、前の晩に耀子が姿を消したと知らされます。

 それも、彼から預かった1億円と共に。

 耀子の通話履歴からミロに辿りついたという成瀬。
 昨夜、何十回も部屋の電話を鳴らしたのは、耀子だったようです。

 

 なくなった1億円は、中古車販売を行う成瀬が暴力団から融通された、表沙汰にできない金でした。

 

 耀子と共謀して大金を盗んだ疑いをかけられたミロは、同じ疑いのかかった成瀬と協力して1週間で金と耀子を見つけるよう、企業舎弟の上杉(うえすぎ)に命じられます。

 

 上杉の手下のチンピラ・君島に監視され、プライバシーを破壊されながら、ノンフィクションライターの耀子を探すふたりでしたが、死体写真愛好家など、耀子の仕事にまつわるアンダーグラウンドな世界の人々と関わるうちに、事態は思わぬ展開に――。

「顔に降りかかる雨」感想

奇妙な三角関係

 親友の耀子と1億円を追うため、出会ったばかりの成瀬と共に慣れない調査を始めるはめになった、主人公のミロ。

 

 暴力団の圧力で、ミロのマンションで寝起きを共にすることになった、男女バディ的関係のふたり

 

 すっぴんでもきれいで気が強く心の傷を抱えた、強そうでいてあやういミロと、イケメンキャラで離婚直後の成瀬。

 

 共に頭の回転が速く行動力もあるふたりは、ちょいちょい激しく衝突しながらも急接近します。

 

 一方、失踪中の耀子(本名は正子)は、ミロとはいろいろと違うタイプの派手な美女で、耀子とミロの間には独特の絆があります。

 

 調査が進むにつれて、耀子の成瀬への執着など、自分の知らなかった親友の姿に直面するミロですが――。

みずからトラブルに巻き込まれにいく、自分を大事にしない主人公

 久しぶりに読んで気づいた、

 以前読んだときには見落としていたこと。

 

 主人公ミロの

 防犯意識が低すぎる 笑

(わろてるばあいか)

 

 昔は、ハードボイルドってそんなもんだろうと思っていましたが 笑 

 子育て経験を経て読み返すと、違和感しかありません。

 

 いいかー?

 ミロや、よくお聞き?

 

  • 電話に出るときは、自分から名乗らない!(いくらオレオレ詐欺のない時代でも)

 

  • 親しくない人に、自分のマンション名を教えない!(いくらGoogle検索のない時代でも。ていうか当時の電話帳の情報量もすごいけど)

 

  • 家や宿泊先に誰か来てドアを開けるときは、チェーンをかけたまま!

 

  • いくら親友の話でも、ここまで危険っていうかヤクザ絡みだったら、さっさと110番通報して警察に任せる! パパの村善もそういってたでしょ!(それだとお話が始まりませんが 笑)

 

 もちろん、どんな防犯状況であろうと被害を受けたら、

 悪いのは被害者ではなく加害者。

 

 とはいえ、

 新宿2丁目のマンションでひとり暮らしのいい年した彼女が、ここまで無頓着なのは、どう考えてもおかしい。

 

 つまり、このなげやりな行動は、

 ただのユルさでもなければ、ハードボイルドだからってわけでもなく 笑

 ミロの自傷行為なのでしょう。

 

 夫をあんな形で失ったことについて、本人が思っている以上に、傷ついて回復していないことの現れですよね。

 

 けれどそんな彼女の言動が、さらなる災いと社会派ミステリーを招くのでした……。

感情の「ゆらぎ」が生々しいキャラクターたち

 この作品の魅力のひとつが、登場人物たちが設定された性格通りに動く「キャラ」でないこと。

 

 もちろん、それぞれの基本設定はあると思いますが、それとは別に、

 その場その場の感情のゆらぎから生まれた、感情的・衝動的な言動が多いんですよ。

 

 そうした人間らしいセリフや振る舞いによって、物語がとても生々しいものになっているのです。

 

 ただ、そのせいで、話が散らかり気味というか、先の読めない展開になっている。

 このスタイルでミステリーを書くのって、プロット作りが大変なのでは 笑

(リアルにはなりますけどね)

 

 たとえば、話の展開とは関係ありませんが、終盤のこのシーン。

 

 (前略)言った言葉が、矢のように自分に突き刺さった。ミロ、おまえはいつから人に説教するようになったのだ。恥ずかしさとやり切れなさで自分が嫌になり、私は肩を怒らせて街に出た。

 

 ここ、その前のシーンのミロが捨て台詞を吐いたところで終わりにしても、普通にかっこよかったんですよ。

 

 でも、さらにひと掘りしたおかげで、他人の前では強面で押し通してるけど実は潔癖で不器用な、複雑なミロの性格がよく伝わって、なんだかきゅんとしました。

本格ミステリーではなく社会派ミステリー

 この作品では、理屈の上ではアリでも、実際にはムリですやん、というタイプの複雑なトリックは出てきません。

 

 調査方法は、突然探偵役を押しつけられた主人公のミロが、あちこちでしんどい思いをしながら、こつこつ情報を集めて謎を解くというもの。

 

 犯行の動機は、舞台となった1990年代前半の、

  • ベルリンの壁が壊され・東西冷戦が終結し・ソ連がロシアになるといった、ダイナミックに変化した世界情勢
  • バブル経済がふくらみきったところからはじけた国内状況

 という環境から生まれたもの。

 

 というわけで本作は、80年代に「新本格」ブームを起こした本格ミステリーとは違う、社会派ミステリーです。

 

 

 \新本格ブームを巻き起こした作品はこちら/

 

 ただし、作中の雰囲気はまだバブル。

 

 仕事で成功し頭も顔もいい、

「いい男」「女なら誰でも夢見る男」

 とされる、ミロたちより10歳ほど年上(42、3歳とされています)の成瀬も、マッチョぶってる割にはふわふわしています。

 

 成瀬の場合、バブルというより、彼が経験した学生運動の名残かもしれませんけどね。

元夫・博夫との思い出がつらい!

「……博夫はいつも優しく、私のことしか考えていなかった。」(p226)

 

 なのになぜ、あんな……(涙)

(読めばわかります!)

村善かっこいい!

 ミロの父親の、

 調査屋を引退して北海道で暮らすダンディ男やもめ60歳ひょうひょうとしててまだ現役感あって危険な仕事の経験も知恵も人脈も行動力も判断力もあってモテて必要なことしかしゃべらなくて娘を寿司屋に呼び出して飲んだりする、

 村善がかっこいい!

 

(情報量が多いのでまとめました)(まとめた、とは)

 

 なのになぜ、あの

『ローズガーデン』……(号泣)

(読めばわかります!)

 

(おしえて桐野せんせー)

 

この時代の東ベルリンの風景

 作中、ノンフィクションの書籍の原稿という形で出てくる、東西統一したばかりの東ベルリンの描写が興味深かったです。

 

 人々の様子の他に、廃墟とか、がれきとか。

 

 日本人と中国人の見分けなんてできるかな?

 と思ったら、やっぱり間違えられることはあるんですね 笑

 

 ただ、途中で使われていた、ある人物からの「復讐」という言葉の意味はピンとこなかった。

 あれは、「口封じ」じゃないのかな?

「ハードボイルド」な結末

 この「村野ミロシリーズ」は、日本における女性が主人公のハードボイルド作品のさきがけとなったそうです。

 

 本作より少し前の80年代から、

 

  • 探偵のV・I・ウォーショースキー
  • キンジー・ミルホーン
  • 検屍官のケイ・スカーペッタ

 

 など、女性作家による女性が主人公のミステリーがたくさん翻訳されていたんですよね。

 

 \ファーストネームの呼び方や名字の発音でひと悶着、というのもアメリカっぽい感じ/

 

 \最後のキメ台詞がかっこいい/

 

 \ベストセラー! 美味しそうなイタリアンも/

 

※ヒロインが活躍する現代ミステリーならこちらもおすすめ

 

 

 本作ではまだ、主人公ミロは、

  • 調査屋だった父の事務所に住んでいて
  • 広告代理店でマーケティング経験がある

 というだけ。

 

 調査経験も格闘技の心得もなければ、探偵をする気もない、巻き込まれ型探偵です。

 

 依頼を受けて調査しているわけでもないし、

 負けん気が強い割には、この時代の女性キャラらしく、妙に男性に丁寧な言葉遣いだったり。

 

 気風はいいけど、正直ぐだぐだ感があります。

 

 でも、

 終盤のミロはかっこいい!

 

 そこまで結構やられっぱなし感があった(2日連続で別の男から殴られたり)ところで、意外なクレバーさとスマートさを発揮。

 こうでなくっちゃ✨

 

 とはいえ、めでたくハッピーエンド! というわけではありません。

 

 残念だけど、それがハードボイルドというもの……。(なのか?)

 

 なお、真相を知ってから読み返すと、

 伏線に結構ぞっとするのでおすすめです!(ひー)

平成というより昭和な、超アンダーグラウンドなあれこれ

 本作には、SMとか死体写真愛好家とか、超絶アンダーグラウンドなあれこれが出てきます。

 

(いい大人のわたくしとらじですが、この本以外でこういうエピソードを見聞きしたことは、いまだかつてないんじゃなかろうか 笑)

 

 イベント名からして「暗黒夜会」だもんなー。

 

 こういう雰囲気が好きな方・興味のある方は、ぜひどうぞ。

「顔に降りかかる雨」作者・桐野夏生と作品群

 1996年版文庫巻末の香山二三郎の「解説」によると、

 作者の桐野夏生は会社員やフリーライターを経て、ロマンス小説、ジュニア小説、レディースコミック原作者として活動。

 

(当時の名義は野原野枝実など)

 

 \Amazonで検索したらこちらが。イラストは田淵由美子先生だ~/

 

 その後、ミステリー小説に挑戦した本作で江戸川乱歩賞を受賞して、人気作家に。

 

 以後、

 

  • 『OUT』で1998年日本推理作家協会賞(同作はのちにエドガー賞にノミネート

 

  • 『柔らかな頬』で1999年直木賞

 

 を受賞。

 

 というだけでもすごいのですが( 語彙力よ)

 そこからもさらに作品世界を拡大し続け、賞を取りまくります。

 

 つまり、すごくすごい。( 語彙力)

 

 

 2021年からは、日本ペンクラブの第18代会長

(女性初だそう)

 

 きっと多忙なのに、還暦もとっくに過ぎてるのに、

 その後も

 

  • 『燕は戻ってこない』(2022年発表)で、吉川英治文学賞毎日芸術賞受賞

 

 など、

 まだまだ周囲をざわっとさせる意欲的なモチーフで書いて、

 しかもドラマ化されるほど売れている。

 

 つまり、

 すごくすごくすごい現役レジェンド作家なのです( 語彙力)

 

「顔に降りかかる雨」ドラマ化

 昔は乱歩賞受賞作を、フジテレビでドラマにしてたんですよね。

 というわけで、本作も1994年に2時間ドラマになっていました。

 

  • ミロ役:鶴田真由さん
  • 成瀬役:役所広司さん

 

 BSフジで、2024年に再放送もしたそうです。

 記事を見にいったら、若い役所さんがギラギラした感じで、「なるほど、こういう成瀬もありかも」という印象でした。

 

 ショートカットでジーンズとかタンクトップとか着てるミロに比べると、鶴田真由さんのスタイリングはお嬢様すぎる。

 でも、好きな女優さんだからまあいっか。

(突然のえこひいき 笑)

「顔に降りかかる雨」こんな方はNGかも/こんな方におすすめ!

こんな方はやめておいた方が……

 作中、前述した通り、耀子の仕事にまつわるアンダーグラウンドな世界の人々が出てくるのですが、その世界が非常にディープ

 

(と、思いましたが、わたしが知らないだけで、もしかしたらこの先にまだ広く深い世界があるのかも……)

 

 特に、SMのイベント「暗黒夜会」での描写は克明で、

 痛い話・グロテスクな話を読むと気分が悪くなる方にはおすすめできません!

 

 SMといっても、エッチな服の女王様がムチでどうこう、ってレベルじゃないんですよ全然。

 

 もう、なんといったらいいのか、お好きな方には申しわけないけど、

 

「え、こういうの見て嬉しくなる人いるんだ……」

 

 って、全力で引いちゃう感じ。

(そもそも、死体写真愛好家という存在を、初めて知ったよね……)

 

 ただただ痛かったり、残酷な違法行為だったり、の世界です。

 スプラッターではありませんでしたけども。

 

 ちなみに、怖いのが苦手、かつ、無駄に想像力豊かなわたくしとらじ、

 読みながら、なんかちょっと血の気が引いてきたかも、と気づいたところで、該当箇所は薄目で早送りしてやりすごしました 笑

(貧血予防!)

こんな方におすすめ

 以下にあてはまる方は、ぜひどうぞ!

 

  • 村野ミロシリーズに興味のある方

 

  • ハードボイルド好きさん(特に女性が主人公のもの)

 

  • うさんくさすぎる占い師や、SMショー、死体写真愛好家など、アンダーグラウンドな世界や雰囲気に興味のある方・好きな方

 

  • 90年代前半の新宿の雰囲気に興味のある方・好きな方

 

  • 傷を負った孤独な女性が、あちこちにぶつかりながらも生き延びようとする、きれいごとではない物語が好きな方

 

「村野ミロシリーズ」読む順番:出版順に読むのがおすすめ

 シリーズ全6作(のはず)をご紹介します。 

 ネタバレ回避のため、出版順に読んでくださいね。

第1作「顔に降りかかる雨」(江戸川乱歩賞受賞作・1993年発表):この記事でご紹介しました

第2作「天使に見捨てられた夜」(1994年発表):読み返すなら今!

 これまた30年前の作品とはいえ、「#MeToo運動」にもつながる問題が取り上げられています。

 

 第1作より腹をくくった感のあるミロ。

 ハードボイルドみ強し。

 

 

※この作品に興味のある方は、よろしければこちらも

第3作・番外編「水の眠り 灰の夢」(1995年発表):とらじイチ押し ♪

 シリーズ中、

 とらじイチ押し作品!

 

 第1作がしっくり来なかった方も、できれば!

 できれば、ここまでは読んでほしい!!

 

 ミロの父・村善の青春。

 戦後まもない時期の東京が舞台ですが、ノスタルジーに浸る系作品ではありません。

 既読の方と、後藤派?村善派?って語り合いたい 笑

第4作「ローズガーデン」(短編集・2000年発表):もう、大変だ……

 短編集

 ミロの学生時代のエピソードも。

 キャラ変(といっていいのだろうか?)でファンを仰天させた問題作です。

第5作「ダーク」(2002年発表):どこまで行くんだミロー!?

 え、えらいこっちゃ~! 

 と、読者をびびらせた激しい話。

 

 桐野先生、こういうのが書きたかったんだろうなー

 

『OUT』で1998年日本推理作家協会賞を受賞したときの「受賞の言葉」に、

 

「これまでに書いたことのないタッチで収束しない物語を自由に書きたい」

 

 とありますもんね。

第6作「ダークネス」(2025年出版):ミロにまた会えるとは!

 前作から23年たっても、やっぱり激しかった「村野ミロシリーズ」

 

 ……ミロや。

 君はいったい、どうしたいんだ?

 

 と、

 終始案じつつ、どこか爽快さも感じてしまう、矛盾した読者心 笑

 

 

※ブランク後に完結した人気小説といえば、こちらも!

 

(ドラマ企画を立ち上げてくれた主演の佐藤健、ありがとう!

え。ファンなのに、あの藤谷さん役を?

さすが人気俳優、鋼メンタルや……)

 

※ブランクありの人気シリーズならこちらも。今後、短編集の発行予定もあるとか。

 

 \たいき~!/

 

※美内先生、待ってます……。

「村野ミロシリーズ」次回予告

 というわけで、シリーズ次回は、

 第2作『天使に見捨てられた夜』をご紹介します。

 

 またおつきあいいただけたら嬉しいです。

 

 \シリーズ次回記事はこちら/

 

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪

 

 

 

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