「怪盗紳士ルパン」モーリス・ルブラン:シリーズ第1作・蒸し暑いときはかっこいいルパンでも

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 ――「神出鬼没の怪盗ルパン」「芸術家肌の紳士で、狙いをつける先は貴族の城館や金持ちのサロンと決まっている」

 変装とスリが得意で、頭脳も力も度胸もあるけど美女には弱い、「怪盗紳士」アルセーヌ・ルパン。
 ルパン初登場作品『アルセーヌ・ルパンの逮捕』を含む9つの短編を収録した、シリーズ第1作の短編集。
 1907年出版

 

 \2005年の新訳!/

 

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      \読みたい項目へGo ♪/

■目次■

 

ルパン1アイキャッチ

「怪盗紳士ルパン」とは

アルセーヌ・ルパン登場! シリーズ第1作短編集

 今回は、みんな大好きアルセーヌ・ルパンのシリーズ第1作、短編集『怪盗紳士ルパン』をご紹介します。

 

 原題は “Arsène Lupin Gentleman Cambrioleur”

 

 いわゆる、ルパン一世のお話

 ということになりますかねー。

 ( そうだけど違います)

 

小説ファン著者のルブランルパン三世ファンモンキー・パンチ先生ごめんなさい 笑)

 

(それはそれとして「ルパン三世」新作映画「不死身の血族」6月27日公開おめでとうございます)

 

 

 

 

 話を小説に戻しますと 笑、

 本書に収録されている9つの短編のうち、第1話『アルセーヌ・ルパンの逮捕』は、1905年に発表されたルパンの初登場作

 

 残りの8話は、時系列通りに配置されているわけではありませんが、互いに関係しあっています。

 

 ネタバレ回避のため、第1話から順に読むのがおすすめです。

ルパンの一人称は「ぼく」

 今回、ハヤカワ・ミステリ文庫の新訳を読んだところ、

 

 ルパンの一人称は「ぼく」がベースで、ときどき「わたし」「おれ」も。

 気になっていた「我輩(わがはい)」は、1度も出てきませんでした。

 

 偕成社の全集も確認したところ、やはり一人称は「ぼく」

 よかったー。

 

 小学生の頃読んだ南洋一郎版で、ルパンの一人称の「我輩」に違和感があったんですよね。

 物語の中ではおしゃれなモテ紳士って書かれてるのに、言葉づかいが変だなあと 笑

 

(あと、恋の相手は「美少女」なのに、表紙のルパンはどう見てもおじさん……っていうのも、すごく違和感でした 笑)

 

 ただし、その後知りましたが、そもそも南版は「翻訳」ではなく、「ルブラン作品を原作とした南作品」だったんですね! 

 びっくりしました。

 

 \文庫化された南版/

有栖川有栖「ミステリファン必読の短編集ベスト3」の1作

 この『怪盗紳士ルパン』は、

 有栖川有栖先生の素敵ミステリー案内『ミステリ国の人々』「ミステリファン必読の短編集ベスト3」とされていた短編集。

 

 \『ミステリ国の人々』の記事はこちら/

 

 ちなみにベスト3の残り2作品は、

  • 『ブラウン神父の童心』
  • 『シャーロック・ホームズの冒険』

 です。

 

 \『ブラウン神父の童心』の記事はこちら/

 

 \『シャーロック・ホームズの冒険』の記事はこちら/

 

 \『シャーロック・ホームズの冒険』第1話、みんな大好きアイリーン・アドラー回/

短編集「怪盗紳士ルパン」全話ざっくりあらすじ・感想

第1話 アルセーヌ・ルパンの逮捕

 フランスからアメリカへと大西洋を航海中の、客船プロヴァンス号。

 魅力的なミス・ネリーや寡黙な青年ロゼーヌと共に、語り手の「ぼく」は旅を楽しんでいました。

 そこへ、あのアルセーヌ・ルパンが、偽名で一等船室に乗っているという無線が入り、乗客たちは色めき立ちます。

 

 読み終わって最初に思い浮かんだ言葉は、

「……おしゃれやなあ」

 でした 笑

 

 大変なことになってるはずなのに、優雅というか浮遊感があるというか、さらっとふわっとまとまっちゃってるんですよねー。

 

 とはいえ、

「まっとうに生きられないのも、つらいことさ……」(p30)

 というセリフを読んだときは、

 

 何をいっとるんだ君は

 

 と(大泉洋さん風に)思いましたが 笑

 

 

 というか総じて、

 

 いったい全体何をやっとるんだ君は

 

 な作品でもありましたが 笑

 

 

(ルパンや? 泥棒の前に、優先順位決めとこ? 宝か美女か 笑)

 

 

 巻末の「訳者あとがき」によると、アルセーヌ・ルパン登場作であるこの短編が発表されたのは、1905年とのこと。

 

 今からちょうど120年前の小説と知ってびっくりするくらい、フレッシュな作品です。

 

 ところで、この1905年というのは、シャーロック・ホームズシリーズ第6作の短編集『シャーロック・ホームズの生還』が出された年でもあるんですよね。

 

 \『生還』の記事はこちら/

 

 ネタバレ防止に細かい説明は省きますが、ホームズファンが熱狂していた時期です。

 

 もしかしたらそのあたりが、本書の最終話『遅かりしシャーロック・ホームズ』につながったのでしょうかねー。

(ビジネスチャンス!) 

 

 \ホームズのシャツもあります/

第2話 獄中のアルセーヌ・ルパン

 川の真ん中にある岩の上に建つ、不気味な外観と歴史を持つマラキ城。
 その城に住むカオルン男爵の美術品コレクションの盗難予告が届きました。

 差出人は、パリのサンテ刑務所にいる、あのアルセーヌ・ルパン。

 不安でたまらなくなった男爵は、有名な警視庁のガニマール警部が休暇で近くに滞在していることを知り、警備を依頼しますが――。

 

 卵のエピソードが好き! 笑

 領収書っていうのも、人をバカにしてますよねえ 笑

 

 詐欺って、こういう風にやるんだな

 という勉強になってしまう作品。

 

 前作『アルセーヌ・ルパンの逮捕』への言及に加え、次作『アルセーヌ・ルパンの脱獄』への伏線もあります。

第3話 アルセーヌ・ルパンの脱獄

 冒頭、刑務所での食事のあとで高給葉巻を楽しもうとするルパンですが、看守が現れてあわてて葉巻を引き出しにしまいます。

 看守に付き添われてルパンが散歩に出かけた途端、独房を家探しする警部たち。
 かねてよりルパンが予告している脱獄の、手がかりを探しているのです。

 葉巻の中から秘密の通信文を発見し、ルパン一味をにかけようとする警察ですが――。

 

 まさか……が、やっぱり! になる作品 笑

 

 逮捕・獄中・脱獄と、3話連続でたたみかけたのがきいてます

 しかも、3作とも幕切れがしゃれてるんですよねー。

 

 ルパンがパリで柔道を教えていたというエピソードも。

第4話 謎の旅行者

 パリからルーアンに向かう特急列車に乗った「ぼく」

 同じコンパートメントには、夫に見送られていた女性と、列車の出発直後に飛び乗ってきた怪しげな男性という2人の乗客が。

 男性を見て青ざめた女性は、「ぼく」だけにこっそり、車内に脱獄中のルパンがいるという、警察勤務の夫に聞いた内部情報を教えます。

 彼女の話に取り合わず、新聞を読みながらうたた寝し始めた「ぼく」でしたが――。

 

 警察に追われる身のルパンとはいえ、悪者にやられっぱなしというわけにはいきません。

 

 ということで、機転をきかせ偶然を活かし、逃げながら追う派手な追跡劇を繰り広げるルパン。

 

 文庫本で27ページほどの短編ですが、爽快なラストまでページをめくる手がとまらない完成度の高い作品

 映像化したら映えそうです。

第5話 王妃の首飾り

 ドルー=スビーズ伯爵夫妻が自慢にしていた、由緒ある「王妃の首飾り」が、夜の間に古い屋敷の納戸から盗まれました

 首飾りがしまわれていた棚に近づくには、寝室のドアを通るか納戸の窓から入るかしかありませんが、窓は小さくドアにも窓にも鍵がかかっており、納戸への侵入は不可能とみなされます。

 首飾りも犯人もみつからないまま、納戸の窓から3メートル離れた向かいの部屋で質素に暮らす、アンリエットと幼い息子のラウールが、屋敷から追い出されました。

 長い月日のあと、伯爵家での昼食会で事件のことが話題になり――。

 

 ここまでの4話とは違う、ガチガチの本格ミステリーです。

 さすがベテラン作家、いろいろ書けてすごいなールブラン。

 ただし謎を解くには、当時の生活に関する知識が必要です。

 

 首飾りと没落貴族のエピソードも印象的。

 

 終盤のドラマティックな会話もいかにもルパンシリーズらしい、ルパンのファンなら絶対読んでおきたい作品です。

第6話 ハートの7

 語り手の「わたし」が
どのようにして、アルセーヌ・ルパンと知り合ったのか?
 についての話。

 6月22日の晩、「わたし」は友人たちと夕食をとったあと、ヌイイのマイヨ大通りにあるひとり暮らしの屋敷に戻ります。

 4か月前から住んでいる小さな屋敷の周辺は、友人のダスプリーが「ずいぶん寂しいところじゃないか!」といった通り、他の家がなく空き地が目立っていました。

 使用人も休暇中で、誰もいない真っ暗な屋敷の中、早々にベッドに入ったわたしは、ナイトテーブルで奇妙な手紙をみつけます。

 その後、屋敷の中で恐ろしい音が――

 

 開始早々、

「あの魅力的でのんきなダスプリーが、半年後にはモロッコの国境で惨殺されてしまうとは。」(p170)

 とさらっと書かれていたのが、こういう風につながってくるとは!

 

 冒険ものが好きな方におすすめの、友情とメロドラマと国家機密の謎が入り混じる、複雑な構成の宝探しのお話

 

 これも映像化したら映えそうです。

 

 ルパンが得意な心理トリックも!

第7話 アンベール夫人の金庫

 深夜3時、パーティー帰りのアンベール氏が路上で何者かに襲われますが、危ないところで若い男性に助けられました。

 命拾いしたアンベール氏は、アルセーヌ・ルパンと名乗る男性を昼食に招き、やがて夫妻の個人秘書にしますが――。 

 

 えー?!

 あのルパンに、そんなことが?!

 

 と、シリーズものならではの楽しみ方ができる異色作。

 

(異色すぎて、「だからもうそんなのやめて、普通に働きなさいよ」とルパンに説教したくなるわたし 笑)

 

 まだアルセーヌ・ルパンと名乗っていなかった、手下と悪だくみをする若きルパンの物語をお楽しみください 笑

第8話 黒真珠

 かつては羽振りが良かったものの、今は小さなアパルトマンで暮らす、故アンディロ伯爵の夫人

 どんなにお金に困っても彼女が手放さない、皇帝から贈られた黒真珠を狙って、ルパンはまんまと部屋に忍び込みます。

 しかし、ひとあし違いで黒真珠は盗まれ、伯爵夫人は殺されていて――。

 

 最初に、どうでもいい感想を。

 イントロでドキドキしすぎて、わたくしとらじ、自分が泥棒に向いていないことを痛感いたしました 笑

 

 第6話同様、ひねった構成が面白い作品です。

 

 ていうかルパン、やることエグいな!

 思ってたよりひとでなしだったんだな!(わーん)

 

 それと、黒真珠の処理は面白かったけど、真珠ってデリケートなのにあんな扱いで大丈夫だったのでしょうか?

最終/第9話 遅かりしシャーロック・ホームズ

 由緒あるティベルメニル城を買い取った銀行家のドヴァンヌと母親は、村の司祭と高名な画家ヴェルモンに加え、近くで演習中のおよそ12名の将校という、大勢の客を食事に招いてご機嫌でした。

 ドヴァンヌから、あのアルセーヌ・ルパンと顔が似ているといわれ、むっとするヴェルモン。

 ティベルメニル家の城主たちが集めてきた芸術品が置かれた塔の広間には、秘密の抜け道があるとされ、それをあのルパンが探っている恐れがありました。

 ルパンを阻止するため、翌日の午後4時に名高いシャーロック・ホームズを招いているドヴァンヌですが、抜け道の暗号を招待客たちに話してしまい――。

 

 暗号好きのみなさまお待ちかねの、暗号回です!

 フランス語がわかる方に有利ですが、わからなくてもある程度はいけそう。

 

 薔薇のくだりが急にロマンティックで、

 
 相変わらず何をいうとるんだ君は

 

 とは思いつつ、ちょっとキュンとさせられました 笑

 

(やるなあルブラン)

 

 

 ところで、前述の通り、

 本書の第1話『アルセーヌ・ルパンの逮捕』が発表された1905年に、お隣のイギリスでは、シャーロック・ホームズシリーズのターニングポイントとなった『シャーロック・ホームズの生還』が出版されています。

 

 

  • この最終第9話『遅かりしシャーロック・ホームズ』に、隣国から招かれたという設定でシャーロック・ホームズが出てきたり、

 

  • 本書の翌年(1908年)に発表された「ルパン」シリーズ第2作のタイトルが『ルパン対ホームズ』だったり、

 

 

 

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 というのは、そのあたりも影響しているのでしょうね。

 

(※追記:

 ……と思っていたら、偕成社全集巻末にある訳者・竹西英夫氏の解説によると、

 

 そもそもこの「ルパン」シリーズは、

「このころ(とらじ注・1903年のこと)海の向こうのイギリスで評判になっていたシャーロック=ホームズやラッフルズ(E・W・ホーナングの探偵小説『素人夜警』の主人公。紳士ふうの押し入り強盗)の特徴をかねそなえた人物を主人公にした新しい探偵小説を書いてほしい

 と、雑誌『ジュ・セ・トゥ』を発行する友人のラフィットに熱心に依頼されて、根負けしたルブランが書き始めたものなのだそうです。

 

 最初からホームズありきだったんですね!)

 

 

 実はわたし、

「ルパン」シリーズに、著者ルブランの手でシャーロック・ホームズが登場し、ホームズの著者コナン・ドイルに断りなく好き勝手書かれていることについて、

 

 そういうのよくないよルブラン

 

 と、長年思っていました。

 

 でも、「ホームズ」シリーズの第1作『緋色の研究』を読み返してみたら、その中でホームズも、当時の有名な既存作品に出てくる探偵のことをけなしてたんですよ。あーだこーだと。

 

 \その件についてはこちらを/

 

 きっと、そういう時代だったんですね。

 ごめんねルブラン、怒りすぎたわ。

(前も書いたけど再度 笑)

 

 

 ついでに、

「ルパン」シリーズに出てくるシャーロック・ホームズといえば、あの逸話が有名ですよね。

 

 ホームズの作者コナン・ドイルが、ルブランに、

 

「そっちの作品でうちのホームズ勝手に出すなよ」

 

 ともの申したところ、

 

「うちのは、シャーロック・ホームズじゃなくてエルロック・ショルメなんで」

(こんないい方はしてないでしょうけど)

 

 と、ルブランが

“Sherlock Holmes(シャーロック・ホームズ)のSの位置を動かし、さらにフランス語読みにするという手を使って、その辺の小学生でもいわないような屁理屈で押し通した

 

 というエピソードが、あったとかなかったとか…… 笑

「アルセーヌ・ルパン」シリーズ著者モーリス・ルブラン:純文学から探偵・冒険小説へ

 著者のモーリス・ルブランは、1864年、フランス・ルーアンの裕福な家庭の生まれ。

 

 偕成社全集巻末の解説によると、ルブランの出生に立ち会ったのは、なんと当時ルーアンで開業医をしていた文豪ギュスターヴ・フローベールの父親。

 

 息子のフローベールからは、1880年に彼が亡くなるまで、「さまざまのすばらしい物語をきかせてもらった」のだそうです。

 

 

 ルブランは兵役や繊維製造会社勤務などを経て執筆を始め、10冊ほど作品を発表しましたが、文壇では評価されたものの、商業的には成功しませんでした。

 

 ところが1905年、友人の出版社社長ラフィットに頼まれて、雑誌『ジュ・セ・トゥ』7月号で発表した『ルパン逮捕される』が大評判に

 一連の「ルパン」シリーズ作品は、まさかの大ヒットとなります

 

 ルブラン本人は、(「ホームズ」シリーズを終わらせたかったコナン・ドイルと同じように 笑)別のジャンルの作家として認められたかったようですが、その後長年にわたって「ルパン」シリーズを執筆。

 

 晩年は、イギリス海峡をのぞむノルマンディー地方の景勝地エトルタの、ルパン荘という屋敷で過ごし、1941年に76歳で亡くなりました。

 

 \エトルタには奇岩城のモデルとなった岩が/

 

 

 \ルブランの伝記/

 /元気だしてルブラン~\

「怪盗紳士ルパン」こんな方におすすめ

「ルパン」シリーズの他の作品と比べると、あっさりしていて推理の要素が強い作品ばかりが収録された、気軽に読める短編集です。

 

 ミステリー好きだけど、ルパンは子どもの頃読んで以来という方は、一度手に取ってみられては?

(有栖川先生もすすめていらっしゃることですし)

 

 それとはまた別に、

 もっと、冒険とか、ロマンとか、ドロドロした恋愛ドラマ希望!

 という方には、シリーズの長編をぜひともお読みいただきたいところ。

(いろいろと派手にやってます、ルパン 笑)

 

 ですが、その場合も、

「ルパンの初登場作品」「ルパンと語り手(=ルブラン?)の出会い」「ルパン誕生秘話」といった、シリーズの記念碑的な作品が収録されたこの短編集を先に読んでおくと、より楽しめると思います。

 

 そんなわけで、

 

  • ミステリー好きだけどルパンものにはあまり縁がなかった
  • ロマンティックな冒険もの、ヒーローもの、あるいはいっそメロドラマが好き
  • とにかく1世のことを知りたい( 言い方よ)

 

 という方に、おすすめの作品です。

シリーズ次回予告

 シリーズ次回は、この記事で書ききれなかった「ルパン」シリーズの読む順番とおすすめ出版社について紹介します。

 

 またおつきあいいただけたら嬉しいです。

 

 \シリーズ次回記事はこちら/

 

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 みなさま、どうぞ楽しい物語体験を♪

 

 

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