山岸尚美(やまぎしなおみ)、一流ホテル「コルテシア東京」で勤続10年目のフロントクラーク。ホテルを愛し、自分にも同僚にも高いプロ意識を求める、切れ長の目の美女。
新田浩介(にったこうすけ)、整った容貌と英語力からホテルマンとしての潜入捜査を命じられた、能力もプライドも高い警視庁捜査一課の若き警部補。
連続殺人犯の新たな犯行が「コルテシア東京」で起こると判明し、捜査のために渋々協力することになったふたりだが――。
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小説「マスカレード・ホテル」あらすじ・名言
舞台は、都内にある一流ホテル「コルテシア東京」
山岸尚美は、勤続10年目のフロントクラーク。
職場である「コルテシア東京」への深い愛を胸にきびきびと働く、切れ長の目の美女ですが、自分にも同僚にも求めるレベルが高く、後輩の指導には苦手意識があります。
そんなある日、連続殺人事件の現場に残された暗号文から、このホテルで4件目の殺人が起こることが判明。
ただし、犯人もターゲットもわかりません。
「コルテシア東京」は、スタッフとして警視庁の潜入捜査官を受け入れることになります。
ホテル業務経験のない警察官をいきなり現場に入れることで、長年積み重ね磨き上げてきたサービスの品質が下がることを心配する、尚美たちホテルスタッフ。
潜入捜査のメンバーに選ばれた警官たちも、不向きな上に興味もないホテル業務より捜査にまい進したいのが本音です。
整った外見と英語力で、宿泊客と接する機会の多いフロントクラークに選ばれてしまった、捜査一課の若き警部補・新田浩介もそのひとり。
(フロントクラークとは、宿泊予約などホテルの「フロント」で働く人のこと。厳密にはコンシェルジュとは異なりますが、作中で尚美が客に東京ディズニーランドへの行き方を尋ねられるなど、重なる業務もあるようです)
有能だけれど傲慢なところのある新田と、彼の指導係に選ばれた尚美は、ときに、いや、割とひんぱんにぶつかりあいながら 笑 犯行を防ぐために協力します。
読み進むうちに、どうして尚美はこんなに献身的に客をもてなせるんだろう? という疑問が。
その答えは後半明かされます。(文庫版p410)
――「ホテルに来る人々は、お客様という仮面を被っている、そのことを絶対に忘れてはならない」
――「ホテルマンはお客様の素顔を想像しつつも、その仮面を尊重しなければなりません。決して、剝がそうと思ってはなりません。ある意味お客様は、仮面舞踏会を楽しむためにホテルに来ておられるのですから」
「マスカレード」(=仮面、仮装)というタイトル回収の名言ですね。
けれど、
――「ホテルの中で仮面を被っているのは客たちだけではない」
という記述もあって――?
小説「マスカレード・ホテル」感想
感情の動きが細やかに描かれた人間ドラマ
本作は三人称で書かれており、視点は章ごとに尚美と新田のどちらかのものになっています。
(ダブル主人公?)
様々な人が集まり・生活するホテルを舞台にした作品あるあるで、
読者の期待通り、いくつもの人間ドラマが起こります。
登場人物たちの感情の動きがとても自然で細やかで、とにかく読まされました。
見どころは、尚美と新田がそれぞれ抱いている自らの職業への誇りと、相手のそれを認め合って成長していく姿。
そして、個性豊かすぎる客たちとのあれこれ 笑
新田視点のときのような、警察官の仕事ぶりが描かれたミステリーは多いですが、本作はそれに加えて、尚美視点のときはホテルで働く人々の舞台裏ものぞき見できるという、ダブルお仕事ミステリーになっています。
(さらに、新田視点での、新人ホテルマンのお仕事小説という側面も 笑)
現代ならではの「連続殺人事件」と、大胆なメイントリック
ミステリーとしては、
現代だから成立した「連続殺人事件」
という点が、まず面白かったです。
メイントリックは、とても大胆。
これを実写化して、しかも大ヒットしたのはすごい!
とある技術が必要なトリックなので、読むとつい実現可能性についてあれこれいいたくなりますが 笑、それだけではなく、人の感情の落とし穴をついた騙しのテクニックが使われているのです。
ただし、アリバイトリックには、
「そこまでそんなことされて、気づかない人っているかな?」
という気持ちも 笑
(ネタバレ防止のため、ふわっとした表現にしています 笑)
それと、新田が潜入捜査に抜擢されるまでペアだった、品川警察署の能勢(のせ)については、刑事って二人一組で動くんじゃなかったっけ? とも 笑
例外もあるのでしょうか。
『新宿鮫』の鮫島みたいな 笑
\新装版 ♪ キンドルやオーディブルもあります/
終盤で、ある人がいう、
「ある犯行の起こるタイミングが確定しないと、こんな不都合が」
という指摘が、鋭い!と思いました。
(こちらもネタバレ防止にふわっと 笑)
とある警察のプランについては、
いろいろな解釈が書かれてはいたものの、やはりけれんみが強すぎるというか無理があるというか、役所なのにそこまでリスク負うかな? という疑問も 笑
コルテシア東京のモデル、ロイヤルパークホテル
(「マスカレード・ホテル」取材協力・映画撮影)
文庫の巻末に、
取材協力はロイヤルパークホテルと書かれています。
文庫の表紙デザインも、同ホテルのホームページにあるロビーの写真にそっくり。
ロイヤルパークホテルは地下鉄半蔵門線「水天宮前」駅に直結しているそうで、これも地下鉄と直結しているというコルテシア東京の設定と一緒ですね。
また、同ホテルは小説のモデルになっただけでなく、
映画「マスカレード・ホテル」の撮影にも使われているそうです。
あのトリックを実写化?!「マスカレード・ホテル」映画化・舞台化
映画「マスカレード・ホテル」
前述の通り、本作は2019年に映画化されています。
監督は鈴木雅之(ドラマ「古畑任三郎」、映画「HERO」など)
キャストは
・新田浩介役の木村拓哉(キムタク初の刑事役だそうです)と
・山岸尚美役の長澤まさみの他に、
・品川警察署刑事の能勢:小日向文世(犯人?)
・捜査一課係長稲垣:渡部篤郎(犯人?)
・ホテル総支配人の藤木:石橋凌(犯人?)
・宿泊客:松たか子(犯人?)、菜々緒(犯人?)、生瀬勝久(犯人?)……
と、誰が犯人でもおかしくない 笑、有名人だらけの豪華な顔ぶれです。
舞台「マスカレード・ホテル」
本作は2020年に宝塚歌劇団の花組で舞台化もされています。
「マスカレード・ホテル」こんな方におすすめ
・映画や舞台をご覧になって、原作も気になった方
・お仕事小説が好きな方
・ミステリーの人間ドラマ要素が好きな方
・バディものが好きな方
・暗号ものが好きな方
・警察・ホテルの舞台裏を見てみたい方
小説「マスカレード」シリーズを読む順番
第1作 長編「マスカレード・ホテル」(この記事で紹介した作品)
『小説すばる』2008年~2010年連載、2011年単行本出版、2014年文庫化。
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2019年に映画化、2020年に舞台化。
第2作 短編集「マスカレード・イブ」:絶対に第1作よりあとで読んで!
前作『マスカレード・ホテル』主人公の山岸尚美と新田浩介の前日譚。
『小説すばる』2013年~2014年掲載の3作と、文庫書き下ろしの最終話を収録。
2014年集英社文庫から出版。
\「マスカレード・イブ」紹介記事はこちら/
第3作 長編「マスカレード・ナイト」:映画化第2弾も!
コルテシア東京のカウントダウン・パーティーに、殺人犯が現れるという密告が。
コンシェルジュになった尚美と新田、そしてあの人も。
2017年9月単行本出版、2020年9月文庫化。
\『マスカレード・ナイト』紹介記事はこちら/
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2021年には映画化も。
第4作 長編「マスカレード・ゲーム」:最新作
ダ・ヴィンチ「BOOK OF THE YEAR 2022」小説部門第1位。
\『マスカレード・ゲーム』紹介記事はこちら/
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シリーズ次回予告
シリーズ次回は、第2作・短編集『マスカレード・イブ』を紹介します。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪
☆この記事では、以下のサイトを参考にしました。
○日本ホテルスクール公式サイト
○映画『マスカレード・ホテル』公式サイト
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