それから、強い女でいるとはどういうことか、つねに示してくれた母に、
この作品を捧げます。(作者献辞)
ただのパーティで、ただの発信で、ただのカフェで、ただの夜道で。
ここ日本なら、ただの通勤電車や雑踏でも……。
朝から晩まで、日常のどんなときも、
「悪いやつ」を警戒し自衛するのがあたりまえとされている、
つまり、
ただ、生きているだけで、
怯えることを強いられている
女性たち。
本書は、
怯えることにうんざりしたダークヒロインが「おんなこどもの敵」を討つ、いわば2020年代ロンドン版の「必殺仕事人」物語です。
原題は“How to kill men and get away with it”
2022年発表、イギリスで15万部超のベストセラー。

「男を殺して逃げ切る方法」あらすじ
物語は、ロンドンのベルグレィヴィア(ドラマ「SHERLOCK/シャーロック」に出てきた高級住宅街です※)にあるアパートメントで、
「わたし」がとある「モンスター」を絞め殺しているシーンからスタートします。
主人公のキティは、数百万人のフォロワーを持つ、29歳の超人気インスタグラマー(=インフルエンサー)
結婚歴なし、子どもなし、家族・恋愛絡みの複数の暗い過去あり。
乳製品を含む動物性たんぱく質全般を食べない、ヴィーガンです。
大手食肉加工会社創業家のひとり娘である彼女は、母親が買った高級ペントハウスでリッチなひとり暮らし。
インスタ収入だけで生計を立てているとはいえ、これまで他の仕事をしたことのない、生まれながらの富裕層です。
執拗なストーカーに悩まされているキティは、ある日、思わぬ事件に巻き込まれ――。
※大人気アイリーン・アドラー回の舞台になった街です
「男を殺して逃げ切る方法」感想
完全犯罪のハウツー本ではありません 笑
献辞にもあった通り、ひとことでいえば、
怯えながら暮らすのにうんざりした女性の物語です。
現代のロンドンの富裕層でも、
しかも、
友人たちに囲まれ腕力もある若い美人インフルエンサーでも、
ただ女性というだけで(日本で暮らすわたしと同様、)
夜道はおろか気楽な飲み会でも、突然の性暴力に備えて身構えてなきゃいけないのか……
と知ると、心からの共感とうんざりを感じますねー。(とほほ)
アラサー女性が「おんなこどもの敵」を始末する、2020年代ロンドン版「必殺仕事人」的なお話です。
ただし、タイトルとは違って、
殺人罪に問われず逃げ切るための方法が書かれた、完全犯罪ミステリーではありません。
「訳者あとがき」によると、
作者は本書を
「皮肉とダークユーモアに満ちた犯罪小説」
と語っているのこと。
また、作中の男性たちの行動は、
「女性を傷つけておきながら罪に問われない男に関するニュース」
をもとに書かれたそうです。
(=実話寄りということ)
なお、ミステリー要素として主人公のストーカー問題もありますが、誰がどんな風にやっていたかという謎は解かれるものの、探偵役が謎解きをして真相に辿りつくわけではありません。
セレブ女子によるポップな連続殺人、かと思いきや
主人公キティの冒険譚という雰囲気で始まる本書。
リッチで流行りものだらけの彼女の生活や、SNSでのあれこれなど、華やかで落ち着きのない世界をのぞき見する楽しさがあります。
このまま、おしゃれノワールとして進んでいくのかと思いきや、
徐々に、彼女や友人たちの抱える困難が明らかに。
キティの殺人の動機が理解できるようになる一方、
「仕事人」的なすっきり感は薄くなります。
主人公の犯行を「やっちゃえやっちゃえ~」と読む
=都合のいい連続殺人をエンタメとして楽しむ
ことが、難しくなるんですよねー。
読者は途中から、
キティと友人たちアダルトチルドレンが、現代ロンドンをサバイブする姿
を見守ることになります。
彼女たちは心に大きな傷を負っているので、回復中(じゃない人もいるかも)の今はまだ、問題行動があるのは仕方ない。
とは思うものの。
おーい、お嬢さんたちー。
あと、週に2日は休肝日を!
ヴィーガンのキティは、その感じだと、栄養なにもかも足りてない!
まずは鉄分サプリとってバナナもお食べ!
ヨガとかパーソナルトレーニングとか、運動してるのはいいね!
不摂生(とたまに連続殺人)と運動習慣が両立できるの、若さゆえだね! 笑
ヨガもトレーニングも、ぜひとも日に当たって、ビタミンD作りながらおやんなさい!
(日本のおばちゃん魂の叫び 笑)
本書のチャームポイント
キティたちの困難は目新しいものではありませんが、それを今どきのアラサー目線とSNS環境で、そしてスカッと悪を斬るスタイルで展開するのが、本書の魅力。
ミステリアスな恋愛小説としても面白く、特に主人公の恋愛の描写には迫力があります。
キティと友人たちのパリピぶりは、正直わたしにはアメリカの「セレブ」たちと見分けがつきませんでしたが 笑、
どれだけ飲んでてもセリフに皮肉なユーモアがあるのが面白かったです。
ユーモアといえば、
“なるほど、いいですね。超ゴージャスに仕上げてあげますよ。彼に失ったものの大きさを見せつけてやりましょう”(p42)
のくだりが、ばかばかしくて好きでした 笑
(内容は読んでのお楽しみに)
日本の読者としては、
キティお気に入りの「旬」も気になるところですねー 笑
(この流れで紹介するのはいかがなものか 笑)
関連作品(女性の復讐物語など)
著者によると、本書の先行作品(女性の復讐物語)には、
- ドラマシリーズ「キリング・イヴ/Killing Eve」
- 同「アイ・メイ・デストロイ・ユー/I MAY DESTROY YOU」
- 映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』
- 小説Sweetpea
- 同オインカン・ブレイスウェイト『マイ・シスター、シリアルキラー』(ハヤカワ・ミステリ)
などがあるそうです。
また、巻末の坂本あおいによる「訳者あとがき」でも、関連図書の
- サリー・クライン『アフター・アガサ・クリスティー 犯罪小説を書き継ぐ女性作家たち』(左右社)
が紹介されています。
この「訳者あとがき」自体、「#MeToo」に加えて、「#ReclaimTheNight(夜を取りもどせ)」「#ReclaimTheStreets(通りを取りもどせ)」というハッシュタグの解説など、たいへん読みごたえがあるので、ぜひ最後までご覧くださいね。
「男を殺して逃げ切る方法」こんな方におすすめ
- 「罪に問われない男」=「(性)暴力をふるって逃げ切る男性たち」を、ヒロインがさくっと始末するのを読んで、すっきりしたい方
- インフルエンサーの超リッチなロンドン暮らしに興味のある方(インテリアやファッション、女子会など)
- アダルトチルドレン問題に興味のある方
- ヴィーガンの食生活に興味のある方
- ロンドンの裕福なアラサー女性たちのティンダー利用方法に興味のある方
(なんか、あざとくなったな今回…… 笑)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪
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