「黄色い部屋の謎」ガストン・ルルー ~暗闇が生んだ密室ミステリーの古典~

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内側から鍵のかかった寝室「黄色い部屋」から、眠っていたはずのマティルド嬢の悲鳴と銃声、大きな物音が聞こえてきた。
父親の教授がドアを破ると、こめかみから血を流した瀕死の令嬢が倒れており、壁や床には襲撃者の痕跡が残されているものの、犯人の姿はなかった。
18歳の新聞記者ルルタビーユがパリ警視庁の警部と競いながら事件を調べる中、令嬢にふたたび魔の手が迫り――。
1908年に出版された、密室ミステリーの古典作品。
 

 

■目次■
 

黄色い部屋の謎アイキャッチ

「黄色い部屋の謎」あらすじと作者ガストン・ルルー

「黄色い部屋の謎」あらすじ

 1892年10月の深夜、パリの南にあるグランディエ城の離れで、城の持ち主で著名な研究者であるスタンガルソン教授が老僕と実験をしていました。

 そこへ、隣の寝室で眠っていた娘のマティルド嬢の悲鳴と、銃声と激しい物音が聞こえてきます。

 

 教授たちが寝室のドアをこじ開け室内をランプで照らすと、家具が倒され荒らされた部屋の中で、マティルド嬢はこめかみから血を流して倒れていました。

 首のまわりには絞められたらしい爪の痕もあります。

 

 ドアと窓に内側から鍵がかかった密室にもかかわらず、部屋の中に犯人の姿はありません

 室内には2発撃たれた拳銃が落ちており、壁には男のものと思われる血のついた手の跡が。他に、靴跡やハンカチ、帽子なども残っていました。

 

 ところ変わって、パリの「エポック」紙で働く丸顔のルルタビーユは、まだ18歳ながら辣腕新聞記者。

(「ルルタビーユ」とは、丸顔でおでこが目立つことからつけられたあだ名で、フランス語で「玉転がし」の意味。本名はジョゼフ・ジョセファン君です)

 

 事件の知らせを受けた彼は、友人であり本作の語り手である「わたし」ことサンクレールと共に現地に向かいます。 

 弁護士であるサンクレールは、グランディエ城に滞在中のマティルド嬢の婚約者ロベール・ダルザックと知り合いなので、彼を通じて取材しようという魂胆です。

 

 現場では、高名な警察官フレデリック・ラルサンが捜査を行っており、ルルタビーユは彼と競うように密室の謎について調べ推理します。

 

 しかし、真相に辿り着く前に新たな事件が――。

作者ガストン・ルルー:
「わたし」+ルルタビーユ=弁護士資格のあるジャーナリスト

 作者のガストン・ルルーは1868年パリ生まれ。

 巻末の戸川安宣の解説によると弁護士資格あり

 法学部を卒業したあと、ジャーナリストとして各地で活動します。

 日露戦争(1904年~1905年)の最前線で取材したこともあるそうです。

 

 1907年に週刊新聞「イリュストラシオン(L'Illustration)」の文芸付録でこの『黄色い部屋の謎』を連載。翌1908年に単行本として出版しました。

 

 『オペラ座の怪人』(1910年発表)の著者としても有名なルルーですが、発表されたのはこの『黄色い部屋の謎』の方が先になります。

 

 \似たタイトルの「赤い部屋の秘密」ならこちら。作者は『クマのプーさん』のミルン!/

「黄色い部屋の謎」感想

ドラマチックな密室ミステリーの古典作品

 かなり、いや、かなーり久しぶりに読み返した本作でしたが、メインである最初の密室の謎は覚えていました

 

(われながらびっくり)

(でも犯人は覚えてなかった)

(そんな自分にまたびっくり 笑)

 

 ただし、細かいことをいうと、そのあと出てくる廊下の事件のトリックの方が好き。

 

 ちなみにそのトリックも、読んでいるうちに思い出しました。(ドヤ)

 シンプルなのが意外で面白かったんですよね。

(でもやっぱり犯人は覚えてなかった 笑)

 

 もっというと、トリックではありませんが、序盤で出てくる

 

「司祭館の魅力も庭の輝きも、何ひとつ失われてはいない」

 

 という謎のワードの意味も、読んでいるうちに思い出しました

 

(でもやっぱり犯人は 以下略)

 

 というわけで、長々と何が書きたかったかといいますと、インパクトが強く記憶に残りやすい、ドラマチックというか人間らしい物語なのです、この作品。

 いってしまえばメロドラマ寄り

 

 メインといえる最初の密室の謎も、ややこしい仕掛けとかではなく、

 

「ああ、こういうことも、ひょっとしたらあるかもなあ」

 

 と思わされるやつ。

 

 しかも作者は、登場人物の心理描写に加えて、場面の雰囲気を盛り上げるのもうまい

 

 ただ正直、盛り上げようとしすぎて、ちょっとくどいところも…… 笑(ルルーごめん)

 

 さすがに終盤のルルタビーユの「時間」の件はひっぱりすぎですよねー 笑

 読んでいて、なんだか昔読んだ子ども向けの「ルパン」シリーズ(アルセーヌの方)を思い出しました。

 

 もしかしたら、熱烈な「ルパン」ファンにとってはこの部分、むしろチャームポイントなのかも? 笑

全部、暗闇のせいだ。

 トリックが人間らしいというか無理なく再現できそうだから好き、とか思いつつ、ふと気がついたのですが。

 

 この作品に出てくる「謎」って、

 

 全部、暗いから成立したやつだ 

 

 現代日本ではなかなか再現できない「謎」ですね……。

そういう時代だったのでしょうか

 以前の記事で述べた通り、この『黄色い部屋の謎』は、

 カーの『三つの棺』ネタバレされていることでも知られています。

 

 \この「密室講義」で、しゃらーっとやられちゃってるんですよ。褒められてはいますけど……/

 

 \「カー」も「ルルー」も出てくるのはこちら /

 

 しかしながら、今回わたしは発見してしまいました。

 

 この『黄色い部屋の謎』でも、(ポーの『モルグ街の殺人』とドイルの『まだらの紐』の)盛大なネタバレが行われていることを……!

 

 ちょっとルルー! 

 人にやられて嫌なことはやっちゃダメでしょー? 笑

 

 「世界初のミステリー」はネタバレのリスクも世界一……\

 

 人気作『まだらの紐』が収録されているのはこちら\
 

 というわけで、

 上の二作をまだ読んでいらっしゃらない方は、本作より先にそちらを読むことをおすすめします 笑

もしくは、p88~89は薄目で読む 笑

 

 なんか……そういう時代だったんですかねー。(とほ~)

「黄色い部屋の謎」続編「黒衣婦人の香り」

 ここまで来てこういうことを書くのもなんですが。

 

 実はこの作品、解かれていない謎が残っています。

 

 それが、ルルタビーユが思わせぶりに何度も口にする


「黒衣婦人の香り」

 

 でも、ご安心ください。

 残された謎は、シリーズ続編で明かされているそうです。

 

 続編タイトルはずばり、


『黒衣婦人の香り』 笑

 

 訳者覚書によると、ルルタビーユの出生の謎や、隠された過去が明らかにされる作品とのこと。

 

 そもそも、『黄色い部屋の謎』と『黒衣婦人の香り』って、ひとつの作品の上下巻みたいな関係らしいんですよね 笑

 

 ただし1冊で完結している『黄色い部屋』とは違い、

『黒衣婦人』は『黄色い部屋』を読んでいないとわからない内容だそうです。

(ルルー、なかなか破天荒)

 

 前の項で紹介した、本書の巻末にある戸川安宣の解説のタイトルは、

 

「『黄色い部屋の謎』解説(表版)」

 

 こちらは『黄色い部屋の謎』の真相を明かさない、いわば通常の「解説」です。

 

 そして、同じ戸川氏が担当した『黒衣婦人の香り』の解説は、

『黄色い部屋の謎』のトリックや真相に踏み込んで解析したのだそうです。

 

 本書の続編『黒衣婦人の香り』はこちら/

「黄色い部屋の謎」こんな方におすすめ

(ちょっとくどいところもあるけど)物語として読みやすい作品なので、どなたにでもおすすめできますが、あえていうなら

 

密室が好き

 

・事件現場の見取り図にときめく

(とはいえ、地図が読めないわたしにも理解できたのでご安心を~)

 

「古典」はおさえておきたい

 

ジョン・ディクスン・カーと江戸川乱歩が推してる作品なら読んでみたい

 

フランス小説の雰囲気が大好物

 

コクトーのファン

(本作、あのジャン・コクトーが序文を寄せているのです。

硬い文章ですが、読み飛ばしても作品を楽しむ分には支障ありません 笑)

 

 という方におすすめです。

 

(やけにクセの強いおすすめ文になってしまった 笑)

 

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 みなさま、どうぞ楽しい物語体験を♪

 

 

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