「四つの署名」コナン・ドイル ~謎の真珠とワトソンの恋、「ホームズ」シリーズ第2作~

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 前回に続き、この記事では「ホームズ」シリーズ第2作の『4つの署名』を紹介します。

 

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 原題は “The Sign of Four”1890年に出版された長編です。

 

 
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■目次■
 
ホームズ6

 

「四つの署名」あらすじ

 冒頭、頭を使っていないと、生きている気がしないからと、

 退屈のあまりコカインの注射を打つホームズ。(驚)

 

(巻末の「注釈」によると、当時のイギリスでは、コカイン・アヘン・モルヒネなどは合法的に買えたそうです

 

 そこへ、依頼人のメアリ・モースタンという若い女性が現れます。

 

 幼い頃母を亡くしたモースタン嬢は、インドで将校をしていた父と別れてイギリスに帰国し、17歳まで全寮制の女学校で暮らしていました。

 

 10年ほど前の1878年、休暇で帰国した父が、滞在しているロンドンのホテルにモースタン嬢を呼びます。

 しかし彼女がホテルに着くと、父は前日の夜外出したまま戻っていないといわれます。

 

 それ以降、父は行方不明のまま

 荷物はホテルに残され、ロンドンに住む父の友人ショルトー少佐に連絡をしても、彼は父が帰国していたことさえ知りませんでした。

 

 それから4年ほどたった1882年、住み込みの家庭教師をしていたモースタン嬢は、新聞で自分の住所を尋ねる広告をみつけます。

 

 広告への返事を出すと、その日のうちに送り主不明の包みが届きます。中には、大粒の真珠が一粒入っていました。

 

 それ以来、毎年同じ日に同じような小包が届くようになります。

 

 そして今朝、モースタン嬢は差出人不明の手紙を受け取りました。

 手紙には

あなたは不当な目にあわれているので、その埋め合わせをいたします

 とあり、今夜7時にライシアム劇場の前に来るよう書かれていました。

 友だちを2人つれてきてもいいけれど、警官は連れてこないようにとのこと。

 

 不安がるモースタン嬢のために、ホームズとワトソンは奇妙な待ち合わせに同行することにします。

 

 モースタン嬢と一旦別れたあと、

魅力的なひとだな!

 と思わずつぶやくワトソンと、

そうだったかね?

 とそっけないホームズ。

 

きみってやつは、ほんとに機械みたいな――計算機械みたいな男だな

 とあきれるワトソン。

 

 夜に落ち合ったモースタン嬢は、父の荷物にあったという謎の地図をふたりに見せます。

 

 建物の見取り図のようなその紙の隅には、4つの十字を横一列につなげたような絵文字と「4人のしるし」という言葉、そして4人の人物の名前が書かれていました。

 

 指定の場所に現れた男性の案内で、3人は郊外のとある家を訪れます。

 貧相な外観に反して、豪華な美術品で飾り立てられた部屋の中では、若いが髪の薄い、とても神経質な男性が待っていました。

 

 サディアス・ショルトーと名乗るその小柄な男性は、父のショルトー少佐や双子の兄バーソロミューのこと、そしてモースタン嬢の父であるモースタン大尉の話を始め――。
 
 \ホームズとワトソンの住所付き・背中側もかわいい ♪/

「四つの署名」感想

衝撃のイントロ

 当時のイギリスでは違法薬物ではなかったとはいえ、

 1日3回コカインを打つホームズという、

 よい子のみんなに見せるのはアレなシーンから物語は始まります。

 

「注釈」によると、この作品より4年早い1886年に発表された『ジキル博士とハイド氏』は、作者のスティーヴンスンがコカインを服用して3日間で書き上げたものだとか。

 いや、怖いって。

 効果ありすぎて。

 

 ちなみに、この『4つの署名』が出版された1890年の50年前、1840年~1842年に起きたのがアヘン戦争です。

元の持ち主当てましょクイズ

 退屈のあまり、ワトソンの懐中時計の元の持ち主がどんな人だったか当てようとするホームズ。

 

 ホームズの推理した持ち主=ワトソンの長兄の人物像が、残酷なまでに正確で、

 前もって調べたんだろうと怒るワトソン

 

 それに対して、デリケートな話題にふれてワトソンを傷つけたのは悪かったけど、調べたわけじゃないし、これまで君にお兄さんがいたことも知らなかったというホームズ。

 

 前回紹介したBBCドラマ「SHERLOCK/シャーロック」の「ピンク色の研究」で、ワトソンのスマートフォンの持ち主を当てたシーンは、この場面のパロディ(オマージュ?)だったんですね。

 

 飲みすぎた人のやりがちエピソードの扱いとか、芸が細かかったなあ。

 兄と思わせて……、というひとひねりもよかったです。

正直に書けばいいってものでは……

特に整った顔だちというわけでも、肌がきれいだというわけでもないが、愛嬌のあるかわいらしい表情に、大きな青い瞳が気高さとやさしさをたたえている

 

 と、初対面でのミス・モースタンの印象をつづるワトソン。

 

 ちょっとワトソン、感じ悪いな

 なんでも正直に書けばいいってもんじゃなくない? こんなこと書かれたら、わたしなら前半でブチ切れだわ。

 

 でも、続けて

 

三つの大陸でさまざまな国の女性を見てきたわたしだが、これほど品のよさと感受性の豊かさをきれいに映し出した顔にお目にかかったことはない

 

 って書いてるからまあ、許す

 

(以上、謎目線でお送りしました) 

 

 \落ち着け、わたし 笑/

感情は推理の敵(らしい)

感情的なものが入り込むと、明快な推理ができなくなる。いや、実際、ぼくの知っているいちばん魅力的な女は、保険金目あてに幼い子を三人も毒殺して絞首刑になったし、男でいちばんいやなやつだったのは、ロンドンの貧しい人たちのためにって、二十五万ポンド近くも投げ出した慈善事業家だったんだぜ

 

 極端だなホームズ! 笑

 まあ、好き嫌いはっきりしてそうですしね、ホームズ。

 

 \ホームズも落ち着こ? 笑(上と色違いです)/

ワトソンの恋愛模様 ~かわいいは正義~

 モースタン嬢が大金持ちになるかもしれないと知って、そんな彼女にしがない退役軍医の自分が求愛するのは良くないよなあ、と、ひそかに落ち込むワトソン

 

 ここ、子どもの頃は理解できなかったシーンですが、今読み返すとわかるというか。

 紳士的な反応といえるのかも。

 

 こんな理由でうじうじされたら、わたしだったら面倒くさ~ってなりますけど、

 そこがワトソンのいいところなんですよね、きっと 笑

 

 階級社会だったり、女性の活動が制限されていたりっていう、当時の状況もありますし。

 

 うじうじしたせいで、

 後日、あのときは冷たかったと彼女に責められるワトソン 笑

 

 緊張したときや落ち込んだとき、本人は普通に周囲と会話できているつもりが、

 はちゃめちゃなことを口走っているワトソン 笑

(そしてそれをあとから指摘される 笑笑)

 

 なのに、緊張Maxの場面で、

 思わずモースタン嬢と手をつなぎ合ってしまうワトソン 笑

(なんなの君たち、かわいいな!)

 

 そして、

 心配事がなくなるやいなや告白するワトソン。

 意外とできる男! 笑

 

 しかも、「よかった!」って、

 なんだそのかわいい切り出し方は 笑

 

 うんうん、よかったね。

 ふたりで幸せにおなり。

名言出ました

「――(前略)ほかのどの要因もひとつひとつ打ち消していけば、最後に残るのが事実ということになるのさ」(p16)

 

いままで何度も言ってきたじゃないか。ありえないものをひとつひとつ消していけば、残ったものが、どんなにありそうなことでなくても、真実であるはずだって(p75)

 

 以前紹介した『シャーロック・ホームズの冒険』でも出てきたやつ。初出はここでしたかー。

副業とかいいださなくてよかった

 ホームズのアマチュアボクシング選手としてのエピソードが語られます。

 プロから見ても筋がよかったのだとか、やるなあ。

 

 からの

 

「聞いたかい、ワトスン。仕事をみんなしくじったって、ぼくにはまだ、こんなりっぱな道が残っていたよ」

 

 って、ホームズそれ、

 

 めちゃくちゃフリーランスらしい発想…… 笑

ゲーテ好きなホームズ

「――(前略)『人は、自分に理解できない相手がいると、馬鹿にして笑うものだ』

 ゲーテはいつも、簡潔にうまいことを言うね」

 

 おっしゃる通りでございます。

やっぱり文芸志向

 犬に犯人の匂いを追わせるシーンが、躍動的でしかもコミカルで楽しかったです。

 風景や犬の仕草も細やかに描きこまれていて、

 ドイル、技術もあるし、やっぱミステリーより文芸作品で売れたかったんだろうな……、

 と、読みながらちょっと遠い目に 笑

ベイカー街イレギュラーズ登場!(p117)

ぼろを着て薄汚れた宿無し子たちが1ダースばかりどやどや部屋に入ってくるって、結構すごいなあ。

 楽しげに書いてありますけれど、この頃ってストリートチルドレン多かったんですね……。

ありがちですが気になること

「注釈」によれば、時代の制約で仕方のないことらしいのですが。

「アンダマン諸島の原住民」への誤解が、すごいしひどい。

 現地の方たち、大目にみてくれてるといいのですが。

サービスシーン?

 疲れたワトソンが眠れるようにと、

 ヴァイオリンで子守唄的な自作の曲を奏でて、寝かしつけてくれるホームズ

 

 ドイル、控えめにいってもサービス精神旺盛 笑

女性っていうのは(ロンドン在住S・ホームズさんのご意見)

「(前略)女性っていうのは全面的には信用できない――どんなりっぱな女性でも」(p126)

 

 なんてホームズにいわれて、どんな反応をするかと思いきや、

 

わたしはホームズの偏見にはとりあわないことにした。

 

 と、さくっと処理するワトソン。

 ほんと、相性いいな君たち 笑

使えそうなトリック

 船を隠しながら、必要なときはすぐ使えるようにしておく方法。あれは現代でも使えそうですね。

ワトソンの結婚宣言と、ホームズの恋愛観

 モースタン嬢がプロポーズを承諾してくれたと浮かれるワトソンに、

 

(1)ひどく憂鬱そうにうめいたあげく、

 

(2)「そんなことになるんじゃないかと思っていたよ。ぼくには絶対におめでとうとは言えないね」などというホームズ。

 

 どうするワトソン?

 

 と思ったら、

 次の行はぽつりと、

 

わたしは、ちょっとむかついた。

 

 むかついたんだねワトソン!(爆笑)

 こんなときでも、なんだか平和な反応だなー。

 

 からの、

 

 ファンが大好きな、ホームズのあれ ↓ です。

 

「――(前略)恋愛なんて、感情的なものだよ。すべての感情的なものは、ぼくがなによりも大切にしている冷静な理性とは、相いれない。判断力をくるわせるといけないから、ぼくは生涯結婚しないつもりさ」

 

 そ、そっか……。

 ほんと、極端だなホームズ 笑

とらじ的今回の優勝は、意外な人物

 上記以外にも、ホームズの変装や手料理(?)の話、船での追跡劇や宝石箱のてんまつなど、魅力的なエピソードがたくさんありました。

 

 そんな中、わたしにとってこのお話で一番面白かったのは、われながら意外なことに、第12章でとある人物が語った過去の話でした。

 

 リアルな紛争の経験談や、一瞬の判断が生死をわける混乱のなかで起きたドラマの話に、全部もっていかれちゃった感が……。

 

 あの人、なんだかんだでどこででも周囲に信頼されてるし、仕事できるし。1番引力あった気がするなー。

 

 ていうか、そう見えるように描かれていたんですよね。

 史実と絡んだエピソードは魅力的で、作者の熱がこもっていました。

 

 やっぱドイル、ミステリーより歴史ものを書きたかったんだろうな……。(2回目)

「四つの署名」こんな方におすすめ

 文庫本でわずか213ページというコンパクトな作品ですが、

 謎あり冒険ありロマンスあり(あと犬やコックニーもあり)と、内容は盛りだくさんでした。

 

 トリックも面白かったけれど、どちらかというと追跡劇や過去の因縁の方に力点が置かれていたので、本作は特に冒険のお話が好きな方におすすめします。

 

 冒険・お出かけのお供に ♪ /

次回予告

 次回は、シリーズ第3作『シャーロック・ホームズの冒険』に戻って、以前の記事でスキップした第1話『ボヘミアの醜聞』を取りあげます。

 

 大人気キャラのアイリーン・アドラーが登場する短編について、

 小説と、それを原作にしたドラマ2作(イギリスのグラナダテレビとBBC)を比較します。

 

 \シリーズ次回記事はこちら/

 

  またおつきあいいただけると嬉しいです。

 

 

※当ブログの、シャーロック・ホームズ記事の一覧はこちら ↓

 

 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 みなさま、どうぞ楽しい物語体験を♪

 

 

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