前回お伝えした通り、今回はシャーロック・ホームズシリーズ第1作・長編『緋色の研究』を紹介します。
ホームズとワトソン初登場。
有名なふたりの出会いのシーンもあります。
(ホームズものを読んでみようかなって思う人って、あのシーンが見たいからって人も多くないですか? あれ? わたしだけ? 笑)
1887年に雑誌で発表、1888年出版の、作者ドイルが初めて出した単行本です。
(ドイルおめでとう!)

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「緋色の研究」あらすじ
軍医として赴いたアフガニスタンで肩を撃たれて大ケガをし、さらには腸チフスまで患って、親戚も友だちもいないイギリスへ送還されたワトソン。
まだ本調子でない身体でロンドンへ辿り着いた彼は、手頃な住まいを探していたところ、病院の手術助手だったスタンフォード青年の紹介でホームズと出会います。
ここで、あの有名なホームズのセリフが炸裂!
「あなた、アフガニスタンに行っていましたね?」(p18)
彼らは、ベイカー街221番地Bの部屋でルームシェアを始めます。
(注釈によると、この「B」というのは補助的な住所を示すそう。
1階に家主のハドスン夫人が、階上にワトソンとホームズが住みます)
化学実験や貧民窟への散歩、気まぐれに弾くバイオリン。
得体のしれないルームメイトが、何をやってる人なのか気になるワトソン。
そんなホームズは、刑事や民間の探偵が困ったときに知恵を借りに来る、諮問探偵でした。
ある日ホームズは、スコットランドヤードの刑事グレグスンとレストレードから、殺人事件の捜査への協力を依頼されます。
事件は、
・家具ひとつない空き家の中で、アメリカ人らしい身なりのいい男性の死体がみつかったが
・金品は手つかず
・死亡原因は不明
・室内に血痕があるが、死体には外傷なし
という奇妙なものでした。
ホームズは、療養中で暇そうなワトソンを連れて現場に行きます。
ほこりの積もった薄暗い部屋。
壁紙のはがれたあとに血で書かれた、RACHEという文字を見て、これは「レイチェル」と人の名前を書きかけたものではなく、ドイツ語で「復讐」と書いたものだというホームズ。
現場に残された足跡などから、犯人は大柄な男性で被害者と馬車で現場まで来たことや、死因は毒殺だということまで見抜いたホームズは、刑事たちを驚かせます。
その後、ホームズとワトソンは第一発見者である巡査の家に行き、夜勤明けで寝ていた彼を叩き起こして話を聞きますが、どうやら、犯人らしき人物は警察とニアミスしていたらしく――。
「緋色の研究」感想
まずはざっくり総論
この作品は、第1部「ジョン・H・ワトスン博士の回想録」と第2部「聖徒たちの国」の、2部構成になっています。
(あっ、第2部のタイトル見てページを閉じかけた、そこのあなた!
もうちょっとだけ話を聞いて~ 笑)
ワトソンの回想録である第1部の終わりまでは、探偵ものらしく話が進むのですが。
第2部で急に、ワトソンやホームズの時代をさかのぼること40年ほどの、1847年のアメリカの話が始まっちゃって、
「え? ホームズの話どうなった?」
と、読者は少々置いてけぼり感を 笑
そしてそこから、第6章でワトソンの回想録に戻ってくるまで、
(第1部との関係を説明することもなく)延々とアメリカの砂漠の話 笑
とはいえ、最初の砂漠で死にかけてる幼い少女と「おじさん」の話から、途中12年くらいはジャンプして、
事件に直接関係あるエピソードに移ります。
でもやっぱり、慣れるまでは正直しんどい 笑
だがしかし。
その難所をクリアして、
第2部第6章でふたたびワトソンの回想録に戻ってくると。
(=第1部の続きに到達すると)
読者はかなりの
「達成感」を味わうことができるのです✨
(でも杉下右京には怒られるやつ)
あ、念のため申し添えますが、
これは「難所を読み切ってやったぜ」っていう達成感ではなく、
とある登場人物の感じた達成感を、読者も分かち合える
という意味です 笑
あと、この話、特定の宗教への偏見がすごいんですよね……。
古い作品ではよくあることとはいえ、信者の方たちがいやな思いしてないといいのですが。
以下、部分部分については箇条書きでまとめました。
ブルドックの子犬問題(p22)
「ブルドックの子犬を飼っています」
ってホームズと初対面のときにワトソンいってますが、
これってイングリッシュジョーク?
その後、一切出てこない子犬が気になります。
どういうことー?
( いち動物好きからの意見です 笑)
追記:
このフレーズ “keep a bull pup”は、当時のインド英語のいい回しで
「かんしゃく持ち」という意味だそうです。
(えのころ工房『シャーロック・ホームズ 人物解剖図鑑』株式会社エクスナレッジ2023年より)
イングリッシュジョークじゃなかった! 笑
ルブラン、ごめん(p38)
ワトソンの前で、ポーの小説に登場する探偵・デュパンや、ガボリオー(史上初の長編探偵小説を書いたフランス人作家)の探偵・ルコックのことを、さんざんにけなすホームズ。
実は私、子どもの頃「怪盗ルパン」シリーズで、
やたらルパンがホームズより上手って描かれている
(この件は以前紹介したこの本でも触れられてます)
のを読んで以来、作者のモーリス・ルブランに対して、
「自分の小説だからって、よそのキャラに勝手にこういうことするの、よくないよ!」
と、長年思っていたのですが。
ドイルも似たようなことやってたんですねー 笑
そういう時代だったのかな。
ルブランごめん、怒りすぎたわ。
相性って大事(p64)
「――きみは探偵術というものを、可能なかぎり厳密な科学に近づけたんだ」
ホームズは、わたし(とらじ注:ワトソンのこと)の言葉とその熱心な言い方に、うれしそうに顔を赤らめた。わたしはもう気づいていたのだが、彼は探偵術についての賛辞を聞くと、美人だと褒められた女性のように敏感に反応してしまうのだ。
普段はつんとしてるのに、
ワトソンに探偵術のことを褒められると、嬉しさが隠せなくなっちゃうホームズ。
そんなホームズを、普段の仕返しをするわけでもなく、かわいいやつめと見守るワトソン。
めちゃくちゃ相性いいな君たち! 笑
「人間の心にはなんてたくさんの面があることか」(p72)
まったくもって同感です。
手錠
かっこいい!
ネタバレ防止に多くはいえないけど、かっこいい!
この本を読もうか迷っている方には、ここだけでもぜひ読んでほしい!
( いや、それはおかしいだろ 笑)
え、住所……(p203)
あれほど有能な人が、あの住所を聞いて罠だと気づかなかったのは、納得いかん。
こんなに昔から(p205)
「実際にどれだけ仕事をしたかなんて、あの連中(とらじ注:刑事たちのこと)の場合は問題にならないんだ」ホームズは苦々しげに言い返す。「問題は、これだけのことをしましたと世間に信じ込ませられるかどうかなのさ」
自営業者vsサラリーマンの構図! 笑
ホームズの少年探偵団登場
名探偵コナンや江戸川乱歩でもおなじみ、少年探偵団が登場しました!
注釈によると、彼らは次作『四つの署名』にも出るというから楽しみ。
なお、ホームズは少年探偵団のことを、この作品では
「刑事警察のベイカー街分隊さ」
と呼んでおり、
「ベイカー街イレギュラーズ」
という名前が出るのは、次作だそうです。
タイトル回収
「――(前略)こんなすばらしい研究対象(スタディ)を危うく逃すところだった。芸術の用語を使うなら、『緋色による習作(スタディ・イン・スカーレット)』とでもいったところじゃないか? 人生という無色の糸の束には、殺人という緋色の糸が一本混じっている。ぼくらの仕事は、その糸の束を解きほぐし、緋色の糸を引き抜いて、端から端までを明るみに出すことなんだ」(p72)
というホームズのセリフからの、
「われらが緋色の研究(スタディ・イン・スカーレット)のいちばんの成果は、つまり両刑事の表彰ってわけさ!」
「いやいや、だいじょうぶだ」とわたしは言い返す。
「事件のことを詳しく日記につけてあるから、ぼくがそのうち世間に公表してやるよ。(後略)」(p214)
で、納得しました。
なるほど、そういうことかー。
かっこいいけどどういう意味かさっぱりわからなかったタイトルの意味が、わかりました。
そして、ちょっとやさぐれるホームズを、きっちりフォローするワトソン。
ほんと相性いいな、君たち 笑
「緋色の研究」おすすめ飽き防止策!
「ホームズ」作品に興味のある方なら、この『緋色の研究』は外せない一作。
ワトソンとの出会いでホームズが最初に一発かますところとか、絶対読みたいですよね。
(ただ、事件が始まるまでの部分や、第2部第5章までが、少々まだるっこしいので、そこはなんとかクリアしてもらえたらなと。
たとえば、「ホームズ」シリーズ1回目の記事で紹介したように、まずは短編『赤毛組合』で「こういう感じか」っていうのをつかんでもらうのもひとつの方法かと)
もしも第2部の途中でイライラしてきたら、
第6章の「ジョン・H・ワトスン博士の回想録(続き)」までスキップしても大丈夫。
話は十分理解できます。
その場合、できれば読み終わってから飛ばしたところに戻って第5章まで読むと、
上に書いた「達成感」ががっつり味わえると思います。
なお、それでも厳しいという方は、発想を変えて、
「聴く読書」にして、
飽きてきたら朗読のスピードを上げてやりすごす
という方法も。
しかもこれなら、シリーズ全巻読んでもかさばりません 笑
それにしても、この『緋色の研究』って、大人の悲哀も込められた作品だったんですね 笑
初めて読んだ小学生の頃は気づきませんでした。(そりゃそうだ)
大人の読者のみなさまにおかれましては、そういう視点で読み返されるのも趣深いと思います 笑
次回予告:ドラマ「SHERLOCK/シャーロック」との比較
次回は、この『緋色の研究』を原作にした、
BBCドラマ「SHERLOCK/シャーロック」の第1シーズン第1話「ピンク色の研究」
と原作を比較します。
またおつきあいいただけたら嬉しいです。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さま、楽しい物語体験を♪
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