今回も長くなったので、下 ↓ の目次から読みたい項目に飛んでくださいね。
「シャーロック・ホームズ」作者ドイルのミステリー界への影響(ざっくり)
コナン・ドイル略歴
コナン・ドイルは1859年5月生まれ。
医学生だった1879年、雑誌に投稿した短編『ササッサ谷の怪』が採用されデビューします。
(『緋色の研究』で商業デビューじゃなかったんですね! 驚)
ロンドンで医師として働いていた1887年に、初のホームズもの長編『緋色の研究』を出版。
2冊目の長編『4つの署名』に続く、3冊目の短編集『シャーロック・ホームズの冒険』は、収録された短編が雑誌に掲載されていた頃から人気を呼び、単行本となって出版されてからは、イギリスのみならずアメリカでもファンが生まれるほどのブームを起こしました。
1893年、ドイルは「ホームズ」シリーズを終わらせたつもりでしたが、読者からの激しい抗議により、やむを得ず10年後の1903年にシリーズ復活。
以後は、亡くなる3年前までホームズものを発表しました。
「ホームズ」シリーズ長編4冊・短編集5冊のほかにも、ドイルはSFや歴史小説など多くの作品を発表しており、なかでも力を入れていたのは歴史小説だったそうです。
1930年、71歳で死去。
作ってみた・へっぽこミステリー年表
そんなドイルや彼の生んだホームズものが、このブログで取りあげてきたミステリー作家たちにどんな影響を与えたのか知りたくなって、かんたんな年表を作ってみました。
(ただし当方、自他ともに認めるうっかりさんなので、抜けとか穴とかあったらごめんやで……)
1849年 ポー死去
1859年 C・ドイル生まれる
1874年 G・K・チェスタトン生まれる
1887年 医師ドイル、イギリスで長編『緋色の研究』発表
1890年 ドイル、長編『四つの署名』発表
同年 A・クリスティー生まれる
1892年 ドイル、短編集『シャーロックホームズの冒険』発表、大ブレイク
1911年 詩人/作家/編集者/経営者のチェスタトン、イギリスで短編集『ブラウン神父の童心』発表
<1914年~1918年、第一次世界大戦>
1920年 前年に第一子を出産したばかりの主婦クリスティー、イギリスで長編『スタイルズ荘の怪事件』でデビュー
1926年 クリスティー、『アクロイド殺し』を発表し界隈に論争起こす
同年 チェスタトン、前の巻から12年ぶりに「ブラウン神父」シリーズ続編発表(『ブラウン神父の不信』)
1927年 ドイル、「ホームズ」シリーズ最終巻『シャーロック・ホームズの事件簿』発表
1930年 ドイル死去
1936年 チェスタトン死去
ふむふむ、ざっと見た感じ、
・アメリカで生まれイギリスに伝わったミステリー小説の人気が、ドイルの生んだホームズで盛り上がり
・それがチェスタトンのブラウン神父につながって
・その後、クリスティーのようにミステリーに親しんで育った世代が成長して、多くのミステリー小説が生まれた
(1920年頃からの約20年間を、探偵小説/本格ミステリーの黄金期/時代と呼ぶそうです)
ってことなのかな~。
と思っていたところ、
作家・翻訳家の北原尚彦さんが、
「エドガー・アラン・ポーの生み出した推理小説を一般化し、世の中に定着させる役目を果たしたのがコナン・ドイルのホームズ物なのだ」
と、きっぱり言語化してくれていました。
(ハヤカワ・ミステリ文庫『シャーロック・ホームズの冒険』上巻の解説より)
おお、やっぱそういう感じでしたか~。
とはいえもちろん、過去の記事でも触れたように上の4人以外にも、そして英米以外でも、いろいろなミステリー作家が活動していたわけですけどね。
そういえば、クリスティーは若い頃「ホームズ」シリーズのファンで、探偵小説に夢中だったとか。
そんな中、お姉さんから「あなたにミステリーなんて書けるわけない」的なことをいわれ、発奮して『スタイルズ荘の怪事件』を書き作家デビューしたのだとか。
いやー、煽ってくれたお姉さん、ありがとう!(クリスティー本人はさぞかしむかついたことでしょうけれど 笑)
おかげで彼女の才能が開花して、後世のわたしたちまで楽しませてもらってます 笑
「シャーロック・ホームズ」文庫で読むならどの出版社がおすすめ?
さて、実際に「ホームズ」シリーズを読み始めるにあたって、いろんな本がある中で、どの出版社のものを選べばいいんだろう? となりますよね。
(ていうか、わたしはなりました 笑)
そこで、手に入りやすい5社+1社の計6社のホームズものを、短編集『シャーロック・ホームズの冒険』で比べてみました。
6社で文体とか比べてみた:「シャーロック・ホームズの冒険」第1話タイトルと冒頭
書影の下の【文体比較】に、各文庫の『シャーロック・ホームズの冒険』に収録された第1話『ボヘミア……』のタイトルと冒頭の2文を記載しました。
⇒「前回の記事で、『ボヘミア』は飛ばして『赤毛連盟』を読めっていったよね?」「イントロ紹介されたら読みたくなるんだけど!」というご意見が、もしもありましたら……ごめんなさい、申し開きはできません 笑
比較しやすいので、つい使ってしまいました 笑 『ボヘミア』のイントロ。
現代風:光文社文庫≧河出文庫>創元推理文庫
1.光文社文庫
くせのない文体で、あっさりさくさく。どなたにでも読みやすそう。
【文体比較(『シャーロック・ホームズの冒険』第1話)】
『ボヘミアの醜聞(スキャンダル)』
シャーロック・ホームズにとって、彼女はつねに「あの女性(ひと)」である。ほかの呼びかたをすることは、めったにない。
2.河出文庫
光文社文庫と同じくらい現代風の文体です。
注目すべきは、充実の資料とボリューム!
【文体比較】
『ボヘミアの醜聞』
シャーロック・ホームズにとっては、彼女は、いつでも「あの女」だった。他の呼び方をすることは、ほとんどないと言ってもいいだろう。
3.創元推理文庫
おおむね現代風ながら、1.の光文社文庫や2.の河出文庫より少々古風な文体。
字が小さく、その分、本の厚みが抑えられているのかも?
「ミステリーなら創元推理」という安心感もありますよね。
巻末の戸川安宣による「解題」に、挿絵のホームズのモデルになったという、画家シドニー・パジェットの弟、ウォルターの写真があります。
彼は外出先で「まあ! シャーロック・ホームズが来ている!」っていわれたことがあるそうな 笑 たしかに挿絵のホームズと似ています。
しかも彼はその後、亡くなった兄の代わりに『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』収録の『瀕死の探偵』の挿絵を描いているそうです。
【文体比較】
『ボヘミアの醜聞』
シャーロック・ホームズにとって、彼女はいつの場合も“あの女性”である。それ以外の呼びかたで、彼女のことを口にすることはめったにない。
あえての古風:新潮文庫
上記3作より古風な文体の新潮文庫ですが、改版の際に、あえて当時の雰囲気は残しつつ、古すぎる表現は変更したそうです(巻末の1989年4月付「改版にあたって」より)
また、その際に活字も大きくしたとか。
19世紀の雰囲気を楽しみたい方におすすめです。
(※2024年11月21日現在、下のリンクでは、現在店頭で売られているものとは異なる表紙も表示されています。参考までにリンクは貼っておきますが、気になる方は書店等で実物を確認して購入してくださいね)
【文体比較】
『ボヘミアの醜聞(しゅうぶん)』
シャーロック・ホームズは彼女(かのじょ)のことをいつでも「あの女(ひと)」とだけいう。ほかの名で呼ぶのを、ついぞ聞いたことがない。
ライト:角川文庫
ライトな文体と表紙イラストが印象的な角川文庫は、アニメやマンガからの読者に特におすすめかも。
ワトソンの一人称が、「ぼく」です!
【文体比較】
『ボヘミア王のスキャンダル』
シャーロック・ホームズにとって、彼女はいつも「あの女(ひと)」だ。ぼくの知るかぎり、ほかの名で呼ぶことはめったにない。
子ども向け:講談社青い鳥文庫(文体比較は省略)
訳は光文社文庫と同じ日暮雅通さん。
こんな作品も(ハヤカワ新装版など)
*ハヤカワ・ミステリ文庫から、『シャーロック・ホームズの冒険 新版』(上下巻・2015年)が出ています。
こちらは、1981年刊行の同タイトル作品(大久保康雄訳)を二分冊にした新装版。シリーズの他の作品については、新版はみつかりませんでした。
下巻には特別対談も収録。(北原尚彦氏と日暮雅通氏による2014年のトークショー)
【文体比較】
『ボヘミア国王の醜聞』
シャーロック・ホームズにとっては、彼女はいつも「あの女」だ。ほかの名で呼んだことなど、めったに聞いたことがない。
(とらじ注:ただし、本作の最後では「あの婦人」と訳されています)
**河出書房新社から、2023年に文庫本より大きいソフトカバー版が出ています。
シャーロッキアンのみなさま垂涎の豪華な資料付きだとか。
(文体比較は省略)
6社の厚みを「冒険」で比較:新潮・角川・(ハヤカワ)<創元推理<光文社<河出
1.普通:
新潮と角川は、普通の文庫本サイズ。
(ハヤカワの新版も普通の厚さですが、こちらは2冊組です)
2.ちょい厚:
光文社文庫と創元推理文庫は、まあまあの厚さ。文庫本2冊分くらいありそう。
光文社より創元推理の方が少し薄く、高さも少し低いです。
3.厚い:
河出文庫は、さらに厚い。
え? 文庫本だよね? っていう重みとサイズ感 笑
丁寧な注や解説のせいですね。
(厚いといっても、もちろん京極堂シリーズの比ではない 笑)
わたしはこちらを読みました
比較した結果、今回わたしは、光文社文庫で「ホームズ」シリーズを再読しました。
訳者は、昨年(=2023年)『シャーロック・ホームズ・バイブル』で第76回日本推理作家協会賞評論・研究部門を受賞された、シャーロッキアンで有名な日暮雅通さんです。解説からもホームズ愛を感じましたねー。
一方、初めて読んだホームズものは、おそらく青い表紙の偕成社版。小学校の学級文庫での出会いでした。(ありがち)
子ども向けとはいえしっかりした内容で、おかげでその後、他のミステリーや『名探偵コナン』に出会ったとき、より楽しむことができたと思います。
気軽に読みたい大人の方にもおすすめです。
選択肢ありすぎ!選べん!となった方はこちら
とりあえずさくっと読みたいと思ったんだけど。
はまったら、絵とか注も見ておきたくなるかも?
だけど、資料がいっぱいついた厚いのを買って、挫折したら本代がもったいないし。
かといって、シンプルなので読み始めてから、やっぱ挿絵とか注も気になって買い直したりしたら、2冊分お金かかっちゃう。
うーーーん……。
と、悩んでしまった方へ。
そんなあなたには、こちら ↓ をおすすめします。
通勤・通学の隙間時間や、家事・ウォーキングのながら聴きで。
まずは気軽に、ホームズ作品に触れてみてはいかがでしょうか。
結果、もっと聴きたいとなったら、そのまま聴く読書を続けるもよし。
面白いけど、やっぱり本で読みたい・挿絵も見たいとなったら、改めて、上で紹介した中からご自分に合いそうな本を選ぶもよしです。
次回予告
駆け足でしたが、これにて事前の準備(?)は終了。
次回の「ホームズ」シリーズ3回目は、短編集『シャーロック・ホームズの冒険』を取りあげます。
また、前回の記事でシリーズの最初に読むのをおすすめした第2話『赤毛連盟』について、あらすじや読んだ感想をお伝えします。