暗号は無事解けたものの、危険が迫っていると手紙に書かれていた問題の人物は、一足違いで殺されたあとだった。
「第一部」では、密室殺人の謎を解くためホームズとワトソンが地方の由緒ある屋敷へ向かい、続く「第二部」では、事件の背景となった“恐怖の谷”での過去がスリリングに描かれる。
ジョン・ディクスン・カーが絶賛した、「ホームズ」シリーズ最後の長編。

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「恐怖の谷」あらすじと背景
「恐怖の谷」あらすじ
前作『シャーロック・ホームズの生還』収録の『空き家の冒険』が起きた1894年から、さかのぼることおよそ6年。(※注)
『四つの署名』事件の少し前の、ワトソンがホームズとベイカー街221Bで暮らしていた時期が物語の舞台となります。
【第1部 バールストンの惨劇】
あのモリアーティ教授の手下であるポーロックという男から、ホームズあてに犯罪を内部告発する暗号文の手紙が届きました。
ワトソンと共に見事暗号を解いたホームズですが、そこに書かれていたバールストンの田舎富豪ダグラス氏は、前の晩に惨殺されていたことがわかります。
ふたりはスコットランド・ヤードのマクドナルド警部の依頼で、現地に同行します。
カリフォルニアでひと儲けしたという噂のジョン・ダグラスは、年の頃50ばかりの人好きのする人物で、よそ者ながら地域で人気がありました。
彼が数年前に購入したのが、17世紀初頭に建てられたマナーハウス。
もとは二重にあった堀の外側は埋められていますが、内側には少ないながらも水が残されており、日が暮れるとそこにかかるはね橋が吊り上げられるため、屋敷は毎晩孤島のような状態になります。
先妻を亡くしたダグラスは、再婚したおよそ20歳年下の美しい妻とこの屋敷で仲良く暮らしており、親しい友人セシル・バーカーがふたりの元を頻繁に訪れていました。
バーカーはダグラスより年下の独身のイギリス人、自宅はロンドンです。
ダグラスとはカリフォルニアで知り合って一緒に事業を行ったことがあり、その後ダグラスがイギリスで再婚してからは、夫妻と親しく交際していました。
ある夜、バーカーの通報で警官が屋敷に駆けつけると、玄関のすぐ脇にある書斎で、寝間着にガウンをまとい裸足にスリッパという姿のダグラスが、頭部を散弾銃で粉々に撃ち砕かれて死んでいるのがみつかります。
密室状態だった部屋に残された、結婚指輪を抜き取られた死体。
そばには、謎の言葉が書かれた紙きれとアメリカ製の銃が。
一方、ホームズの調査中に庭を散歩していたワトソンは、ダグラス夫人とバーカーが親しげに談笑している姿を目撃してしまい――。
【第2部 スコウラーズ】
舞台は1875年、アメリカのヴァーミッサ谷(ヴァレー)という炭鉱の町。
シカゴからこの地にやって来た主人公・マクマードは、ケンカ慣れしていて頭もよく、女性にもモテて、新顔ながら地元の労働者たちの間でのし上がり――。
※とらじ注:
ここに書いた「恐怖の谷」事件の発生時期は、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』の松岡正剛氏による巻末エッセイに掲載された、
ベアリング=グールド作成の事件年代記に基づく年表を参考にしています。
「ホームズ」シリーズの事件の時期については、本文中にはあまり説明がなく、おまけに矛盾点もあるらしく 笑 、ファンの中でも様々な意見があるそうです。
「恐怖の谷」特徴と発表時期など
二部構成
本作は「第1部」「第2部」と「エピローグ」からなる二部構成で、解説によるとこれはホームズもの長編の特徴とのこと。
ただし、後述のように、前半から後半へのつなぎは『緋色の研究』よりぐっとスムーズになっています。
「恐怖の谷」発表の時期と、ベースになった書籍の存在
この作品は「ホームズ」シリーズではおなじみの『ストランド』誌に、
第一次世界大戦中である1914年9月号から1915年5月号まで掲載され、
単行本はイギリスでは1915年6月に出版されました。
作中の「第2部」は、1877年に出版されたとある書籍(解説で詳しく説明しています)に基づいた実話ベースの物語となっています。
他の作品の発表時期との時系列関係
単行本の発行年だけ見ると、前作『生還』が出た1905年から本作の出版された1915年までには10年もの間があいていますが、
この長編の連載の前後に、ドイルは短編を『ストランド』誌で発表していました。
時系列は以下の通り。
①1908年9月号から1913年12月号までの期間に、飛び飛びで短編6作を掲載
②1914年9月号から1915年5月号まで本作(長編『恐怖の谷』)を連載し、
1915年6月に単行本として出版。
③1917年9月号に短編『最後の挨拶』を掲載
(なお、この短編の作中の時期は、他の作品よりずっと先に進んだ1914年8月に設定されています)
④1917年10月、①と③の計7つの短編を収録した短編集『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』を出版
(シリーズ第8作)
その後、1921年10月号から1927年4月号にかけても、ドイルはホームズものの短編を掲載。
1927年6月、それらを収録した短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』が出版されます(シリーズ第9作/最終作)
その3年後に、作者ドイルはこの世を去りました。
「恐怖の谷」感想
読みやすくコンパクトな作品
さくさく進む、読みやすい作品でした。
しかも、「第1部」が終わる単行本の半分でメインの謎解きは終わりという、コンパクトなつくり。
構成は『緋色の研究』に似ていますが、「第1部」から「第2部」へのつなぎは、以下の文章のおかげで同作よりずっとスムーズでした。
――時間にして二十年ばかり時代をさかのぼり、空間にして何千マイルか西へ舞台を移して、奇怪で恐ろしい物語を味わっていただこう。(中略)そして、このはるかかなたのできごとをくわしく語り、過去の謎を解いていただいたあかつきには、ふたたびベイカー街の部屋で落ち合って、これまでの多くの不思議な事件と同じように、この物語の結末を見届けることにしたい。
『緋色の研究』にもこういう文言があれば、読者はあの第2部でぽかーんとしなかったはず…… 笑
『緋色の研究』第2部問題 笑 についてはこちらを ↓
作者ドイルがホームズものの経験でミステリーに求められることを把握した結果の、必要最低限のシンプル設計だと思います。
が、その分ドイルの個性も減っているようで、寂しい気も 笑
また、「第2部」はホームズものには珍しいハードボイルド風味の冒険譚。
勧善懲悪ですっきり、と思ったら、あの「エピローグ」に続くんですよね……。
環境に恵まれた(笑)メイントリック
メイントリックの、Howの後半部分(ネタバレ回避にふんわりした表現となっております 笑)が、「夢があるなあ」と思いました 笑
トリック自体はスレた読者にとってはそう珍しくありませんが、
なかなかできないことなんですよ、後半のあれは!
だってほとんどの人は、アレ持ってないから!(わくわく)
すごーい! ○○はどうやったの? △△はどんな風に?
みたいに、犯人を質問攻めにしたくなりました。
もうちょっと詳しく教えてほしいなー、あの体験。
ドイルは多分、そういう感想望んでないと思いますけども 笑
(とらじ的)本書の名言
①「けれど、いちばん弱いところで鎖の強さが決まる」(p14)
かっこいいこと言うなあワトソン!(ファンによる感想です)
②ひとりで調査していたホームズが、夜遅く宿のワトソンとの相部屋に戻って、目を覚ましたワトソンに尋ねます。
「ワトスン、きみは、頭のおかしいやつとか、脳軟化症のやつ、正気をなくしてしまったやつ、そんなのといっしょの部屋で眠るのはいやかい?」
「いや、ちっともかまわないが」(p123)
即答かよワトソン!(号泣)
「恐怖の谷」こんな方におすすめ
ずばり、これからミステリーを読んでみようかなと思っている方におすすめします!
というのも、コンパクトにいろいろな要素がまとまっているんですよね、本作。
「第1部」では、暗号と密室殺人・ホームズとモリアーティ教授の因縁・被害者夫人と被害者友人の不倫疑惑、
さらには、いくらホームズに失礼な扱いを受けてもさらっと流せる
理想の同居人ワトソンまで。( え)
「第2部」では、西部劇風のアクションと、ハードボイルド風味。
そして、「エピローグ」での「巨悪との戦いは……」みたいな幕切れ。
自分はどういうミステリーが好きなのかな? と模索中の方に、ぜひ読んでいただきたい作品です。
次回予告
「ホームズ」シリーズ次回は、
シリーズ第8作の短編集『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』を取りあげます。
またおつきあいいただけたら嬉しいです。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
みなさま、どうぞ楽しい物語体験を♪
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