現場付近にいた人たちは、怪しい人物は部屋に入っていないと口を揃えたが――。
短編集『ブラウン神父の童心』第5話。
「見えない男」あらすじ
アンガス青年は、軽食堂で働くローラにプロポーズします。
ローラはかつて故郷で、二人の男性スマイスとウェルキンからの求婚を断っており、彼らがふたたび自分の前に現れることを心配していました。
故郷を出たあと、家事用ロボットの開発によって経済的に成功したスマイス。一方、同じく故郷を出たウェルキンは、現在どこで何をしているのかわかりません。
以前スマイスからの手紙を読んでいたときに、その場にいないウェルキンの声がなぜか耳元で聞こえたと、おびえてアンガスに話すローラ。そのとき、ふたりの前にスマイスが現れます。
ウェルキンから何度も脅迫状を送りつけられたとスマイスはいい、ローラの働く軽食堂のガラスにも、嫌がらせの紙が貼られていました。
やがて、姿の見えない犯人による奇妙な殺人が起こり――。
「見えない男」感想
ミステリーとは関係ないけど触れずにはいられない!このシーン
これ、話の本質とは全然関係ないのですが……。
ローラに結婚を迫る、アンガスのトークが! いい! 笑
「半ペニーの菓子パン一つと、砂糖なしのコーヒーの小さいやつを一杯ほしいな」
かーらーのー、
「それから、ぼくと結婚してほしいんですが」
ですよ! さらっと!
そりゃあローラだって動揺するさ 笑
そこから先しばらく、とぼけた感じだったりぐいぐいいったり、ガードの固いローラのことめっちゃ攻めますからね、アンガス。
いいぞーもっとやれ! 笑
100年以上前の会話なのに、しっくりくるし、なんならちょっとキュンとするのにびっくり。
正直、事件の話が深刻になって、ふたりの攻防戦が終わったのが残念なくらいでした 笑
とはいえ、今のイメージだとチェスタトンってすごい昔のおじいさんだけど(だって1874年生まれ)、この作品の発表された1911年はまだ30代半ばの詩人兼ジャーナリスト、しかも美術学校卒、とくれば、トークも経験豊富な感じがしますよね。(いや、偏見ですね 笑)
第一次世界大戦前のイギリス本格ミステリーっていうと、なんだかお行儀良さそうですが、こういうこなれた会話もありだったんですね。
それにしても、モテって案外変わらないんだなあ 笑
ついでにいうと、チェスタトンは『自叙伝』の文章も面白いらしい。
戸川安宣による解説で紹介されていた『自叙伝』冒頭の一節 ↓ が、めっちゃツボでした。
いや、長いて! 笑
↓
「権威や年上の者の言うことは盲目的に尊ぶという私の習慣に従い、差し当り自分個人の判断を働かせて確かめることのできない話を鵜呑みにして、私は自分が1874年5月29日、ケンジントンのキャムデン・ヒルで生まれたのだと思っている」
大胆なトリック:「見えない」理由
犯人が「見えない」理由が新鮮でした。
この理由、時代も社会も違う今のわたしたちにはあてはまらないけど、似た状況はあると思います。
と思っていたら、こちらのドラマの終盤でもそんなセリフが。
ラストが斬新
ブラウン神父は、警察官でも探偵でもなく、カトリックの神父さんなので。
事件の謎を解くところまでは警官や探偵と同じだけど、事件を解決する方法は、また違うんですよねー。(ほろり)
読んでいて、ちょっと救われる気がしました。
寒空の下で……っていうのは、お気の毒でしたが 笑
こんな人におすすめ
この短編集の12作品とも、大胆なトリックや発想の転換が鮮やかな、切れ味のいい短編ミステリーでした。
色彩感覚も豊かで(作者が絵も得意だったからでしょうか)、特に風景描写が美しく、味わい深い文章と共に、小説の世界をゆったりと楽しめました。
ただし、この「ゆったり」っていうのがポイントで。
ちゃちゃっとトリックだけ知りたい! という方には、まどろっこしい世界かも 笑
とはいえ、どれも短いお話なので、時間に余裕のあるときに、まずは一編のんびり読んでみることをおすすめします。
のんびりとかゆったりとかいう割には、派手に血が出る話が多いですけど 笑
追記:ドラマ「ブラウン神父」の同タイトル作品について
この作品が原作となっている、BBCドラマ「ブラウン神父」のシーズン3第3話、「見えない男」を観ました。
あらすじ・感想と、原作小説(このページで紹介した作品です)との比較をまとめましたので、よろしければこちら ↓ もご覧ください。