「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」ベンジャミン・スティーヴンソン ~小ネタやメタっぽい記述が楽しい、「信頼できる語り手」による雪山ミステリー~

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「ぼくの家族は全員誰かを殺したことがある。実際、ひとりならず殺した猛者もいるくらいだ」

「ぼく」ことアーネスト・カニンガムが、苦労しながら片手でキーボードに打ちこんだ、とある連続殺人事件の体験記
(というテイのミステリーです)

 兄のマイケルによる殺人に巻き込まれたぼくは、その後、3年ぶりの「一家の再会」のため、いやいやながら雪山のロッジに向かうが、そこで新たな殺人が――。

 ノックスの十戒を愛する「信頼できる語り手」が贈る、現代版“読者への挑戦状”をお楽しみください。 

 原題は“Everyone in my family has killed someone” 2022年発表。
 
 
 

ぼくの家族はみんな誰かを殺してるアイキャッチ

「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」あらすじ・作者

あらすじ

 主人公の「ぼく」は、ミステリーを書くためのハウツー本の著者である、オーストラリア人男性アーネスト・カニンガム

 プロローグで「ミステリー黄金期」作品への愛を語った彼は、続けて
 
「どうかぼくを“信頼できる語り手”と呼んでもらいたい」
 
「ぼくが語ることはすべて真実、少なくとも、語っている時点では真実だと思っていたことだ」
 
「ぼくは探偵とワトソンの両方、つまり謎解きをする探偵と語り手の役割を担う」
 
 と早々にいいきった上、
 
「本書のプロットには、トラックが通過できるほど大きな穴がひとつある」
 
 など、これでもかと刺激的な記述を続けます。
 
このときすでに、読者は作者の術中にはまっているわけですが 笑
 
 
 最初の章のタイトルは「兄」
 
 ある夜、車でぼくの家にやってきた兄のマイケルは、飲酒運転で人を轢いたといい、死体を埋めるのにつき合えとぼくを車に乗せます。
 
 車内には謎の大金
 そして、兄に逆らえない主人公の目の前で、驚きの展開が。
 
 次の章「義妹」は、それから3年ほどあとの話。
 
 41歳のぼくは、「一家の再会」のため、叔母のキャサリンに命じられてスキーリゾートに車を走らせています。
 
 待ち受けるのは、叔母とその夫アンドリュー、ぼくの母オードリー再婚相手のマルセロ、マルセロの連れ子のソフィア、兄マイケルの元妻ルーシー
 
 とある理由でぼくをのけものにしてきたファミリーと、久しぶりに過ごした翌朝、雪山の中で見知らぬ死体が発見されます。

 さらに、その後合流したメンバーが、予想外の行動を――。

作者ベンジャミン・スティーヴンソン

 作者のベンジャミン・スティーヴンソンは、オーストラリアの人気コメディアン兼作家

 

 いわれてみれば、本作の人を食った饒舌な文章や仕掛けは、スタンダップコメディアンっぽい印象です 笑

 

 この作品は彼の3作目の小説で、世界27か国で刊行されたそうです。

「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」感想と続編

メタ的記述が新しい!

 プロローグで主人公の「ぼく」は、

 

●自分を「“信頼できる語り手”と呼んでもらいたい」といい、

 

「本書では25、68、95ページで人が死ぬか、死んだことが語られる」

「本書にはセックスシーンはひとつもない」

 など、非常に細々とした説明をします。

 

 さらに本文でも、

 

●ここは伏線だと指摘を入れたり、

 

「ぼくが謎解きに必要とした手がかりを挙げておく」

 と、読者も謎を解いてみろといわんばかりに手がかりを列挙したり、

(しかも手がかり、めっちゃ多い 笑

 

●(それどころではないタイミングにもかかわらず)関係者を集めて、全員の前でとうとうと謎解きを始めるなど、

 

 いろいろと、やりたい放題楽しそうにやってくれます 笑

 

 

 ちょいちょい読者を笑わせにくる饒舌な文章は、作者がコメディアンなのを思い出させますねー。

 

(ちなみにわたしが一番笑ったのは、巻末の「謝辞」中の、作者の弟へのメッセージでした)

意外と重い設定と、キャラクターのこと

 タイトルで誤解されるかもしれませんが、本作、

 殺し屋一家の物語ではありません

 

 わたし自身、初めてタイトルを読んだときは、てっきりそういうお話かと 笑

 

 ついでに、タイトルとプロローグの印象から、ポップな作品だろうと思っていたところ、こちらの予想もはずれ。

 主人公が子どもの頃から置かれてきたのは、相当ハード、というより、悲惨な環境でした……。

 

 また、たくさんの登場人物がわかりやすく書き分けられている一方、やや類型的。

 ただし、終盤で各自の秘密が明かされると、急に魅力的になる人物もいました。

 

(ネタバレ防止にふんわりした表現にしています 笑)

しばりは多く、語り口は軽く、謎解きはきっちり

 あれこれ盛り込まれ、広げられたストーリー(とタイトル)

 

 しかも、隙あらばふざける文章

 

 とくれば、はたしてこの作品がミステリーとしてちゃんと成立するのかと、読みながら不安になる読者もいるかもしれません。

 

 でも、大丈夫!

 

 作者は、大きく広げた風呂敷を、きっちりたたんでくれます!

 

 どうぞ安心して、最後までお楽しみください。

ミステリーファン向けの小ネタたち

 プロローグの前に「ノックスの十戒」の引用があることからもわかるように

(しかも、ページに折り目をつけて何度も読み返してほしいからと、折れ線付き 笑)、

 ミステリーファンならくすっとなる小ネタが、あちこちに仕込まれた作品です。

 

ノックスの十戒が気に入った方は、こちらの作品もぜひどうぞ 笑

 

※十戒より多いニ十則を作っちゃったヴァン・ダインについてはこちら

  

 なお、これから読む方に、ひとつだけ注意点が。

 

 実は作中、クリスティーの『そして誰もいなくなった』ギリアウトなネタバレがあるのです。

 

 未読の方は、同作を先に読んでおくことをおすすめします!

 

 \『そして誰もいなくなった』紹介記事はこちら(ネタバレなし)/

ラブストーリーでもあります・続編に期待!

 本作、最初からさんざん笑わせにくる一方で、主人公が妻とかわす会話のシーンは、エモいというか上質な恋愛小説になっています。

(なんかずるいなあ 笑)

 

 読むと、

 

 あーーー、あるよね~。

 

 そういうこと、あるよね~。

 

 と思わされてしまう、名シーンなんですよね。

 

 最終的な主人公の選択には、いろいろな意見があると思いますが……。

 

 うーん。

 後悔もあるだろうけど、まあ、

「ぼく」にはそっちの方が向いてるんじゃないかなー

 

 と、わたしは思いましたねー。

 

 人の感情や考えてることは、他人にはわからない場合も多いので。

 相手との関係に迷ったら、行動で判断するのが一番確実かなあと。

 

 たとえ「ぼく」のことを大切に思ってくれている人でも、その人の行動で「ぼく」が傷つくなら、「ぼく」の幸せのためには、関係を変えた方がいいんじゃないかなー。

 

 と思いましたがどうでしょうね?

(続編に期待!)

 

※というわけで、気になる続編はこちら!

その他

●被害者の殺され方が悲惨すぎ。

 めちゃくちゃ辛そうな死に方なんです。かわいそう!

(性犯罪とか流血がひどいとかではありません)

 

●各章のラストの引きが強い!

 さすが人気コメディアン、エンタメをわかってるな~。

 悔しいけど面白いわあ。

「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」こんな方におすすめ

  • タイトルが気になりすぎる方(はやく読んで楽になって♪ 笑)

 

  • ミステリーファン、特に本格ミステリーのファン

 

  • コメディアンとミステリー作家の二刀流が気になる方

 

  • 「オーストラリアン・ミステリーの黄金期」を見逃したくない方(詳しくは「謝辞」を参照のこと 笑)
 
 
 
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪
 
 
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