「ぼく」ことアーネスト・カニンガムが、苦労しながら片手でキーボードに打ちこんだ、とある連続殺人事件の体験記。
(というテイのミステリーです)
兄のマイケルによる殺人に巻き込まれたぼくは、その後、3年ぶりの「一家の再会」のため、いやいやながら雪山のロッジに向かうが、そこで新たな殺人が――。
ノックスの十戒を愛する「信頼できる語り手」が贈る、現代版“読者への挑戦状”をお楽しみください。
原題は“Everyone in my family has killed someone” 2022年発表。

「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」あらすじ・作者
あらすじ
プロローグで「ミステリー黄金期」作品への愛を語った彼は、続けて
さらに、その後合流したメンバーが、予想外の行動を――。
作者ベンジャミン・スティーヴンソン
作者のベンジャミン・スティーヴンソンは、オーストラリアの人気コメディアン兼作家。
いわれてみれば、本作の人を食った饒舌な文章や仕掛けは、スタンダップコメディアンっぽい印象です 笑
この作品は彼の3作目の小説で、世界27か国で刊行されたそうです。
「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」感想と続編
メタ的記述が新しい!
プロローグで主人公の「ぼく」は、
●自分を「“信頼できる語り手”と呼んでもらいたい」といい、
●「本書では25、68、95ページで人が死ぬか、死んだことが語られる」
「本書にはセックスシーンはひとつもない」
など、非常に細々とした説明をします。
さらに本文でも、
●ここは伏線だと指摘を入れたり、
●「ぼくが謎解きに必要とした手がかりを挙げておく」
と、読者も謎を解いてみろといわんばかりに手がかりを列挙したり、
(しかも手がかり、めっちゃ多い 笑)
●(それどころではないタイミングにもかかわらず)関係者を集めて、全員の前でとうとうと謎解きを始めるなど、
いろいろと、やりたい放題楽しそうにやってくれます 笑
ちょいちょい読者を笑わせにくる饒舌な文章は、作者がコメディアンなのを思い出させますねー。
(ちなみにわたしが一番笑ったのは、巻末の「謝辞」中の、作者の弟へのメッセージでした)
意外と重い設定と、キャラクターのこと
タイトルで誤解されるかもしれませんが、本作、
殺し屋一家の物語ではありません。
わたし自身、初めてタイトルを読んだときは、てっきりそういうお話かと 笑
ついでに、タイトルとプロローグの印象から、ポップな作品だろうと思っていたところ、こちらの予想もはずれ。
主人公が子どもの頃から置かれてきたのは、相当ハード、というより、悲惨な環境でした……。
また、たくさんの登場人物がわかりやすく書き分けられている一方、やや類型的。
ただし、終盤で各自の秘密が明かされると、急に魅力的になる人物もいました。
(ネタバレ防止にふんわりした表現にしています 笑)
しばりは多く、語り口は軽く、謎解きはきっちり
あれこれ盛り込まれ、広げられたストーリー(とタイトル)
しかも、隙あらばふざける文章。
とくれば、はたしてこの作品がミステリーとしてちゃんと成立するのかと、読みながら不安になる読者もいるかもしれません。
でも、大丈夫!
作者は、大きく広げた風呂敷を、きっちりたたんでくれます!
どうぞ安心して、最後までお楽しみください。
ミステリーファン向けの小ネタたち
プロローグの前に「ノックスの十戒」の引用があることからもわかるように
(しかも、ページに折り目をつけて何度も読み返してほしいからと、折れ線付き 笑)、
ミステリーファンならくすっとなる小ネタが、あちこちに仕込まれた作品です。
※ノックスの十戒が気に入った方は、こちらの作品もぜひどうぞ 笑
※十戒より多いニ十則を作っちゃったヴァン・ダインについてはこちら
なお、これから読む方に、ひとつだけ注意点が。
実は作中、クリスティーの『そして誰もいなくなった』のギリアウトなネタバレがあるのです。
未読の方は、同作を先に読んでおくことをおすすめします!
\『そして誰もいなくなった』紹介記事はこちら(ネタバレなし)/
ラブストーリーでもあります・続編に期待!
本作、最初からさんざん笑わせにくる一方で、主人公が妻とかわす会話のシーンは、エモいというか上質な恋愛小説になっています。
(なんかずるいなあ 笑)
読むと、
あーーー、あるよね~。
そういうこと、あるよね~。
と思わされてしまう、名シーンなんですよね。
最終的な主人公の選択には、いろいろな意見があると思いますが……。
うーん。
後悔もあるだろうけど、まあ、
「ぼく」にはそっちの方が向いてるんじゃないかなー。
と、わたしは思いましたねー。
人の感情や考えてることは、他人にはわからない場合も多いので。
相手との関係に迷ったら、行動で判断するのが一番確実かなあと。
たとえ「ぼく」のことを大切に思ってくれている人でも、その人の行動で「ぼく」が傷つくなら、「ぼく」の幸せのためには、関係を変えた方がいいんじゃないかなー。
と思いましたがどうでしょうね?
(続編に期待!)
※というわけで、気になる続編はこちら!
その他
●被害者の殺され方が悲惨すぎ。
めちゃくちゃ辛そうな死に方なんです。かわいそう!
(性犯罪とか流血がひどいとかではありません)
●各章のラストの引きが強い!
さすが人気コメディアン、エンタメをわかってるな~。
悔しいけど面白いわあ。
「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」こんな方におすすめ
- タイトルが気になりすぎる方(はやく読んで楽になって♪ 笑)
- ミステリーファン、特に本格ミステリーのファン
- コメディアンとミステリー作家の二刀流が気になる方
- 「オーストラリアン・ミステリーの黄金期」を見逃したくない方(詳しくは「謝辞」を参照のこと 笑)
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