警察の捜査で死体は隣の州のホテルで働いていたダンサーのルビーとされ、小さな村は大佐のスキャンダルでもちきりに。
バントリー夫人は仲のいいミス・マープルを誘ってホテルに赴き、関係者の様子を探ろうとするが――。
1942年に出版された、ミス・マープルシリーズの長編第2作。
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「書斎の死体」あらすじ
ある朝、地区の主席治安判事を務める退役軍人バントリー大佐の暮らす「ゴシントン館」で、書斎のカーテンを開けようとしたメイドが、暖炉の前に見知らぬ若い女性の死体が横たわっているのを発見しました。
妻のドリーは、すぐさま仲良しのジェーン(=ミス・マープル)を屋敷に呼び、得意の推理で謎を解くよう頼みます。
一方、小さなセント・メアリ・ミード村は、バントリー大佐と死んだ女性のうわさ話でもちきりに。
派手なドレスに身を包んだ金髪の死体は、30キロほど離れた海辺の街にあるマジェスティック・ホテルで働く、臨時ダンサーのルビーだと確認されました。
死体の身元確認に来たルビーの従姉ジョージーの話が気になったバントリー夫人とミス・マープルは、マジェスティック・ホテルに滞在して、直接関係者の様子を探ろうとします。
そこへ、ルビーをかわいがっていた車椅子の老富豪コンウェイ・ジェファーソンに招かれた、元警視総監サー・ヘンリー・クリザリングも現れて――。
「書斎の死体」感想
第2次大戦中に書かれた、シリーズ長編第2作
- 1930年に、長編第1作『牧師館の殺人』
- 1932年(収録作品の雑誌掲載は1927年から)に、ミスマープル初登場作品を含む短編集『火曜クラブ』
が出版された、ミス・マープルシリーズ。
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その後短編の発表を挟み、
1942年、今回ご紹介する『書斎の死体』がシリーズ長編第2作として出版されました。
本作が書かれたのは、第2次世界大戦が始まって間もない、ロンドンがドイツ空軍による空襲を受けていた時期だったそうです。
探偵小説あるあるを逆手に
タイトルの通り、冒頭で死体がみつかってしまう書斎があるのは、
なんと、『火曜クラブ』後半の舞台となった、バントリー大佐夫妻の屋敷「ゴシントン館」
(お屋敷だけあって、もうひとつ別の書斎もあるようです)
著者の「序文」によれば、
「書斎に死体がみつかる」というのは当時の探偵小説の定番だったそうです。
クリスティーは当時、
「何年かにわたって、“よく知られたテーマに変化をつけた素材”を使うことはできないものかと、模索をつづけて」
いたとのこと。
多作で知られる「ミステリーの女王」ですが、じっくり構想を練っていたんですね。
なお、作中、『火曜クラブ』で活躍した元警視総監サー・ヘンリー・クリザリングも登場し、ふたたびミス・マープルと共に事件を調査することになります。
コージーミステリーと本格推理のマリアージュ・持つべきものは
本作、特に前半は、残酷な殺人事件があったにも関わらず、ものすごく軽快に物語が進んでいきます。
コージーミステリーという呼び名にふさわしい雰囲気だなあ、なんて思っていたら、その後、はた目には気楽に見えていた人にもいろいろと考えがあったことが明らかに。
うんうん、そうだよねえ。
まっとうな大人なら、そうじゃなきゃねえ。
持つべきものは、勇敢な妻と賢い友だち。
とはいえ、
シリアスなエピソードがあっても、なんだかんだで気づけばまた読者は軽やかな世界にいるという、クリスティーのベテランの技 笑
ミステリーとしては、他のミス・マープル作品に比べて本作は、推理の過程や証拠がすっきりはっきり説明されている印象でした。
「階下のラウンジの左から三番目の柱のそばに、いかにも独身といった感じのやさしい落ち着いた顔をした老婦人がすわっている。人間の心の奥底に潜む邪悪さを見抜き、それをあたりまえのこととして受け入れてきた人だ。名前はミス・マープル。(中略)犯罪となれば、まさにミス・マープルの出番だよ、コンウェイ」(p156)
という、サー・ヘンリーによるミス・マープルの紹介にニヤニヤ 笑
ケレン味がきいてます 笑
(このあとサー・ヘンリーが語る、州警察本部長のメルチェット大佐が登場し、ミス・マープルが大活躍した事件とは、『火曜クラブ』最終話『溺死』のこと)
途中で出てくる少年のセリフ、
「(前略)おじさん、探偵小説って好き? ぼく、大好き。たくさん読んでるよ。それに、ドロシイ・セイヤーズと、アガサ・クリスティーと、ディクスン・カーと、H・C・ベイリーのサインも持ってんだ。(後略)」(p110)
からも、ベテラン人気作家として活躍中のクリスティーが、楽しみながら書いている雰囲気が伝わってきました 笑
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早々に真相に辿りついてしまうミス・マープルですが、名探偵にふさわしく(?)、きっちり裏を取るまでは、ホテル暮らしにつき合うほど仲良しのドリーにも推理は話しません。
「わかりましたとも!」
「まあ、誰なの? 早く教えて」
ミスマープルはきっぱりと首を横にふり、唇をすぼめた。
「悪いけど、ドリー、それはできないわ」
「どうしてできないの?」
「だって、あなた、口が軽いんですもの。あちこちでしゃべってまわるに決まってる――あるいは、しゃべらなくても、きっとほのめかすでしょうね」
「ううん、そんなことしない。ぜったい誰にもしゃべらない」
「そういうことをいう人にかぎって、約束を守らないものなのよ。(後略)」
(P270)
……だよねえ。わかる! 笑
楽しい仕掛けも
終盤、前作『牧師館の殺人』のラストで判明したあの彼女が、元気なお母さんになって登場して、ほっこり。
(あのシーンは正直、「こんなプライバシーが守られない村、絶対住みたくない!」とぞっとしましたが 笑)( ←村のファンの方ごめんなさい)
また、最後の最後にもうひとつ、前回記事でご紹介した『迷路館の殺人』と同様、まるで予想外の方向からのちょっとしたどんでん返しがあります。
お楽しみに。
(こちらは大技ではなく、事件の謎とも直接関係のない、膝カックンって感じの内容です 笑)
\『迷路館の殺人』の記事はこちら/
「書斎の死体」ドラマ化
ドラマ「ミス・マープル」(1984年)
1984年、本作を含むミス・マープル長編がBBCでドラマ化され、「ミス・マープル」というドラマシリーズになりました。
この『書斎の死体』は、栄えあるシリーズ第1作(シーズン1のエピソード1~3)
原作に忠実な内容で、心を鎮めるためにブタを見にいくバントリー大佐がたいへんかわいかったです 笑
ミス・マープル役はジョーン・ヒクソン。
トーキー駅で行われたクリスティー生誕100周年イベントでも活躍した俳優さんですね。
\イベントを紹介した記事はこちら/
ドラマ「アガサ・クリスティー ミス・マープル」(2004年)
こちらは、2004年にイギリスグラナダテレビとアメリカのWBGHボストンが共同制作した、クリスティー作品を原作としたドラマシリーズ。
本作『書斎の死体』は、こちらでもシーズン1のエピソード1。
ミス・マープル役を務めるのは、ジェラルディン・マクイーワンです。
(シーズン4~6ではジュリア・マッケンジーに交代)
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「書斎の死体」こんな方におすすめ
コージーと本格が両立した、どなたにもおすすめできる作品です!
また、当時のイギリスのホテルや、メイドや執事がかしずく上流階級のモーニングルーティンに興味がある方にもおすすめします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
みなさま、どうぞ楽しい物語体験を ♪
☆参考文献:
マッシュー・ブンスン、笹田裕子/ロジャー・プライア訳『アガサ・クリスティ大事典』2010年、柊風社
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