「五匹の子豚」アガサ・クリスティー ~コアなミステリーファンにおすすめ・完成度の高い「回想の殺人」~

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ポワロの元に、美しい依頼人カーラ・ルマルションが訪れる。
彼女が5歳だった16年前、有名な画家だった父が殺され、夫の浮気に悩んで彼を毒殺したとされた母は、その後獄中で死亡していた。
自身の結婚を控えるカーラは、母の無実を証明するために、事件を調べるようポワロに頼む。
母が冤罪なら真犯人は主な関係者5名の中にいると思われる中、マザーグースの「五匹の子豚」を思い出しながら、ポワロは調査を始めるが――。
 
 
 先日ご紹介した『フォックス家の殺人』について調べていたときに、あちこちで比較対象として取り上げられていたこの作品。
 
\『フォックス家の殺人』はこちら/

 
『フォックス家の殺人』より3年早い1942年
(=『そして誰もいなくなった』の3年後、クリスティーの脂の乗った時期!)
 に発表された、同じように過去の殺人事件の調査をする「回想の殺人」ものの作品
 イギリスでの原題は“ Five Little Pigs ”です。
 
■目次■
 
五匹の子豚アイキャッチ

 

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「五匹の子豚」あらすじ

 ポワロのもとに、カナダからカーラ・ルマルションという魅力的な21歳の女性が訪れます。

 

 カーラの本名は、キャロライン・クレイル。

 彼女が5歳のとき、有名な画家だった父のエイミアスが毒殺されました。

 裁判の結果、夫のたび重なる浮気に悩んでいた母のキャロライン(娘と同じ名前)による犯行とされ、母は終身刑になります。

 

 幼いカーラはカナダの親戚に引き取られ、名前を変えて、遺産相続の権利を得る21歳になるまで、何も知らず幸せに育ちました。

 

 母のキャロラインは獄中で亡くなっていましたが、娘が21歳になったら渡すようにと手紙を残しており、そこには自分は無実だと書かれていました。

 

 事情を知ったカーラはショックを受け、婚約者との結婚前に事件の真相を知りたいと思い、ポワロに16年前の事件の調査を依頼することにしたのです。

 

 事件当時、現場となったカーラの家には、夫婦とひとりっ子のカーラの他に、

父の絵のモデルで愛人の、20歳のエルサ

・母の年の離れた妹のアンジェラとその家庭教師のウィリアムズ先生

父母の幼なじみのメレディスとフィリップ兄弟

 の5人がいました。

 

 真犯人はこの5人の中にいるとみなしたポワロは、マザーグースの「五匹の子豚」を思い出しながら、関係者の話を聞いてまわりますが――。

「五匹の子豚」感想

コアなミステリーファン向けの高い完成度

 あまり知名度は高くないと思いますが、知る人ぞ知るというか、

 ミステリーファンにすごく評価されている作品です。

 

 たとえば、クリスティーの全作品の評価・紹介をしている

 霜月蒼『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』では、

「最高傑作であろう。」

「未読の者はすぐに本屋に走るように。」

「あまりに見事。完成度はおそろしく高い。疑いなくクリスティーのベスト。」

 と、星5つが付けられています。

 

 

 大矢博子『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』でも、

 本作はクリスティーの“回想の殺人”というジャンルの中での

「最高傑作」

 とされ、

 人が、いかに自分の見たいものしか見ず、信じたいものしか信じないかという

「普遍的な人間心理」

 が描かれているとされています。

 

 

 うん、わかる。

 

 すごくうまく書かれているし、結末の余韻も他の作品にはないタイプ。

 

 たるみもない。

 キャラの言動にも、謎解きにも納得

 

 とにかくレベルが高い!

 

 だから、完成度が鬼高いのはわかります。

 

 わかるんだけど……

 

あまりにも、
救いがなさすぎやしませんか? 
この作品 笑

エイミアス(被害者)、自業自得説

 いや、救いがないとはいっても、ハッピーになった人もいましたよ? 

 ポワロの調査前に比べて。

 

 でも、その人たちだって、全面的にハッピーっていうより、

「よかった、けど……」

 みたいな気持ちだったと思うんですよね。多分。

 

 まあ、

 冤罪事件を追う作品をリアルに描いたら、どうしたってこういう感じにはなっちゃうだろうな、

 とは思いますけど。

 

 リアルとはいっても、関係者が全員さくっと16年前の事件についての詳細な手記を書いてくれるっていうのは、現実には難しいだろうとも思いますけど。

 

 本作、コメディリリーフ的なシーンもありませんしね。

 

 もっといえば、

 

 正直、犯人の気持ちもわかってしまうし。

 

 いやもちろん、犯人は悪い。

 悪いんだけど、でも、

 

 そのときそういう気持ちになっちゃったのは、わかるよ!

(その後のことは知らんけど)

 

 と、多くの読者が思ったはず。

 

 結局のところ、被害者がああじゃなければよかったんですよね

 

 そうすればあんな事件は起こらず、誰も傷つかなかった。

(そしてこの小説も生まれなかった 笑)

 

  つまり、

 

これはおまえが悪いわ、
エイミアス。

 

 というわけで、この作品、気分が沈んでいるときや、軽いものを欲してるときには読まない方が、

 というか、

 

 元気なときに読むのがおすすめの作品です! 笑

 

(そして、読み終わったらエイミアスを断罪しよう)

ビビッドな事件とモノトーンの男性たち?

 第1部第1章から第7章までの、ポワロが捜査担当者や関係者の男性たちと会うシーンでは、

 事件に関係の深いことは色彩豊かに詳細に、それ以外の部分は必要最低限に描写されています。

 

 事件について各人が語る思い出や手記の中、あるいは、ポワロが訪れる事件現場となった屋敷や砲台庭園では、風景や人物が色鮮やかに書き込まれているのですが。

 

 その一方、ポワロからインタビューを受けている彼ら自身や今いる部屋については、ほとんど描写がなく、会話だけで話が進むのです。

 

 つまり、

 語り手のセリフや手記の中にはビビッドな世界があるけれど、

 彼らとポワロが向かい合っている現実の部屋はモノトーンの印象。

 

 そのため、最初は背景のわからないセリフばかりのシーンが続き、単調な印象でしたが 笑、

「第1部第8章 この子豚はローストビーフを食べた」で関係者女性へのインタビューが始まってからは、書き込みが増えてぐっと読みやすくなりました。

印象的なモチーフ

 もっとも心に残ったのは、とある重要なモチーフのこと。

 

 そのモチーフの特徴が、

 

 物語の始まりと謎が解けてからでは意味が変わる

 

 というか、

 それの持つ価値やパワーは変わらないのに、

 

 明るい正のエネルギーから真逆の負のエネルギーへと変化する

 

 ことが、とても印象的でした。

「五匹の子豚」こんな方におすすめ:ドラマや戯曲も

  • コアなミステリーファン

 

  • 人間の心理を掘り下げた作品が好きな方

 

  • ドラマや戯曲で本作を鑑賞した方

 本作はポワロシリーズとしてドラマ化されているのに加え、

 作者クリスティー自身が1960年に戯曲化したそうです。

戯曲のタイトルは“Go Back For Murder”『殺人をもう一度』

 

 映像化にあたり、原作とは設定が変更されたそうなので、できればそちらを鑑賞した方にも原作に触れていただき、こちらのラストも味わっていただけたらなと思います。

 

 

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 みなさま、楽しい物語体験を ♪

 

 

 

 \読むとクリスティーの世界が深まる!おすすめ本の紹介記事はこちら!/

 

 

 

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