密室状態で発見された死体には、不可解なたくさんの刺し傷が。
偶然乗り合わせていた名探偵ポワロは調査を始めるが、容疑者となった様々な国籍・年齢・階級の客たちには、それぞれに鉄壁のアリバイがあって――。
「オリエント急行の殺人」
ドラマや映画が作られ続ける超人気小説
今回はうって変わって、すごーくクリスティーらしい作品!
前回紹介した『そして誰もいなくなった』に、知名度では劣るけど人気では劣らない、超有名作品です。
とにかく、メイントリックが有名!
そしてクリスティーらしく、恋も涙も愛も、ちょっと意地悪なところもあり、舞台もキャラもゴージャスで、何よりポワロがいる!
(残念ながら、ヘイスティングズはいないけど 笑)
1934年に発表されたにもかかわらず、原作としたドラマや映画が今も作られ続けている人気小説なのです。
最近だと、たとえばケネス・ブラナーのこちらの作品が有名ですよね。
でも正直、ポワロがかっこよすぎるのが不満……。
2015年に地上波で放送された、三谷幸喜版のドラマも盛り上がりましたよね。
斬新な構成(あっち側から語るとは!)と、かっこよくてキモいというクセの強い役だった嵐の二宮くんが面白かったです 笑
というわけで、クリスティー作品未読の方に、どれかひとつだけ彼女の作品をおすすめするなら、個人的にはこちらの作品かなと。
とっつきやすいし、結末も含め、作者の個性がよく出ていると思います。
「オリエント急行の殺人」あらすじ
主人公は、小さな身体に大きな口ひげと卵そっくりの頭がトレードマークの、ベルギー人探偵エルキュール・ポワロ。
イラクで殺人事件を解決した彼が(『メソポタミヤの殺人』という別の作品になっています)、シリアでイスタンブール行きの列車に乗り込むところから物語は始まります。
数日観光してからイギリスに戻る予定だったポワロでしたが、イスタンブールで列車を降りてホテルに着くと、ロンドンからの帰国要請の電報が届いており、急きょその夜出発するカレー行き寝台列車オリエント急行に乗ることに。
季節外れの乗客でオリエント急行の寝台車は満室でしたが、偶然同じ列車に乗ることになった友人ブーク(国際寝台車会社の重役)の口添えで、予約した客が来ていなかった二等寝台をポワロはもぎ取ります。
翌日の昼食時、ポワロはシリアからの列車で会ったイギリス人の大佐と、同じくイギリス人の家庭教師女性を見かけます。
また、アメリカ人の富豪ラチェットから、大金を払うから警護をしてほしいと依頼されますが、獰猛で冷酷そうな彼を嫌うポワロはそれを断ります。
その夜、別の車両にブークが移ってくれたため、ポワロは彼のいた一等寝台(個室)に移りますが、それはラチェットの隣の部屋でした。
ラチェットの反対隣の、ドアでつながった個室を使っているアメリカ人ハバード夫人は、ラチェットが入ってこられないよう境のドアにスーツケースを立てかけておいたとポワロに話します。
深夜、誰かのうめき声で目を覚ましたポワロは、車掌がラチェットのドアをノックするところを見かけます。室内からはフランス語で答えがありました。
一方、その少し前に、列車は雪だまりに突っ込んで止まっていました。
翌日、止まったままの車内で、ポワロはブークから、ラチェットの刺殺体が発見されたので、現地の警察が来る前に事件を解決してほしいと頼まれます。
ラチェットの部屋は、廊下側のドアにはチェーンがかかり、ハバード夫人の部屋とつながったドアにはかんぬきがかかっていて、出入りできるのは窓だけ、しかも雪には誰の足跡もないという、密室状態でした。
死体には様々な種類の刺し傷がついており、調べた医師によると複数犯による犯行ではないかとのこと。
その後、ラチェットが以前アメリカで起きた凶悪犯罪の犯人だったことが判明します。
事件の夜は車掌がほぼ一晩中通路にいたことなどから、犯人は外部の人間ではなく同じ車両の12人の客の中にいると推理したポワロですが、客たちは全員完璧なアリバイがあり――。
「オリエント急行の殺人」感想
ドラマチックでゴージャスな舞台
トルコのイスタンブールから、フランスのカレーへ。
豪華列車でヨーロッパを横断する旅っていう設定にまずときめきますよねー。
ちなみに、本作の舞台であるヴィンコヴチ駅周辺とは、現在のクロアチアです。
ベルで呼んだらすぐに車掌さんが来て、あれこれお世話してくれたり。食堂車でうやうやしく給仕されたり。
ロシアの元公爵夫人が、眠れないからと夜にメイドさんを呼びつけて、眠れるまで本を朗読させたり。
独特の雰囲気に引き込まれます。
とはいえ、無論現代に比べたら不便な設備で、登場人物たちはみんなシャワーも浴びられずに何泊もしてるわけですが 笑
作者クリスティーはミスリードの鬼
さて、肝心の事件の方はというと、殺人の動機は早々に確定されますが、そこから先が全然進みません。
といっても、何もみつからないわけではない。
調査で新しい手がかりがみつかるたびに、なぜか推理が難しくなっていくのです。
国際的に活躍する名探偵ポワロをして、
「乗客の誰についても“この人物が犯人だ”と証明するのがきわめて困難」
「誰の場合も、アリバイを証明する言葉が“思いもよらぬ”人物から出ている」
(いずれも本文396ページ)
と言わせるくらい、容疑者が一向に絞り込めないように見えるんですね。
犯人にいいように引っ張り回されて、全然真相に近づけない感じ。
むうう、クリスティーめ……好きー! 笑
「オリエント急行の殺人」衝撃の犯人
初めてこの作品を読んだとき、犯人が明らかになるシーンですっごくびっくりしたのを覚えています。
このあと取りあげる予定の『アクロイド殺害事件』ほどではないけれど、なかなかの掟破り感でした。
同じ名作でも『そして誰もいなくなった』の方は、読んでから時間があくと、「犯人誰だっけ?」となるのですが 笑 こちらの作品は、さすがに忘れません。
(既読の方は、首がもげるほどうなずいてくださると思う)
あと、謎解き終盤、犯人がキャラ変するところでは、何度読んでも泣きそうになってしまいますね。
ううう……許さないぞー! あいつめー!(思い出し泣き)
「オリエント急行の殺人」こんな人におすすめ
前回と同じことを書いてしまい申しわけないのですが、本作、これからミステリーを読んでいこうかなという人にも、小説はそれほどでもないけどドラマや映画が好きな人にもおすすめします。
ネタバレ事故にあう前に、ぜひ! さっさと読んでおきましょう。
そういえばなんと、解説の有栖川有栖は、中一のときに本作のネタバレをくらってしまったそうですよ。ひー!
その状態で本作を読んでも、楽しめないわけではなかったそうですが、できることならやっぱり、ポワロの謎解きシーンでびっくりしたかったとか。
ということは……犯人を知っていても楽しめるくらいの名作ということですかね、この作品 笑
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さっさと読みたいのはやまやまだけど、時間がないんだよー!
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もちろん試聴もできますので、まずは気軽に試してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、本作『オリエント急行の殺人』のナレーターは杉村理加さんです。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞみなさま、楽しい物語体験を♪