その夜、姿を見せない館の主が、彼らの過去の殺人を糾弾する。
やがて童謡の歌詞の通りに、客たちは1人ずつ殺されていき……。
1939年に発表された、世界で一番有名なミステリー。
アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』について書きました。
長くなったので、下の目次 ↓ から興味のある項目へ飛んでくださいね。
ミステリーの女王の代表作
「ミステリーの女王」アガサ・クリスティー49歳、デビュー20年目の、いわゆる脂の乗った時代の作品です。
長編としては短めですが、短い割には登場人物が多く、それでいてキャラはわかりやすく書き分けられており、しかも、80年以上たった今読んでも設定やトリックは洗練されている。
つまり、超名作。
ところで、ブログ1本目にこの作品を選んだことでお察しかと思いますが、わたしはクリスティーの大ファンです。
ですが、本作が一番好きな作品かといわれると、正直そこまでじゃない。
だって、ポワロが出ないから 笑
(あと、ヘイスティングズとミス・マープルと、トミーとタペンスも 笑)
それにこの作品って、クリスティーらしいかといわれたら、あんまりそういう感じはしないんですよね。
お茶がどうだのスコーンがこうだのっていう、いつもの描写がないからでしょうか 笑
(その分、短くまとまっているわけですが)
じゃあどうして、わざわざブログ1本目に、この作品を紹介するのか。
それは、細かい好みはさておき、未読の方がいたら絶対におすすめしたい作品だから!
特に、ミステリー小説をこれからいろいろ読んでみようかなと思っていらっしゃる方。
そういう方は、先にこちらを読んでおいた方がいいですよー、絶対。
なぜなら、読むと他の作品の読み方が変わるから!
すべてとはいいませんが、ジャンルを問わず多くの作品について、見る目が変わると思います。
簡単にいうと、すごくたくさんの作家にオマージュされてるんですよね、この作品のメイントリック。
あと、見立て殺人とか密室状況の設定も。
ただし……
「そして誰もいなくなった」元ネタがあった?
つい先日。
『2023年版このミステリーがすごい!』(宝島社)で、本作の「元ネタとなった戯曲」があるとさらっと紹介されているのを、発見してしまったのです、わたし(驚)
その戯曲とは、アメリカ人劇作家オーエン・デイヴィスの『九番目の招待客』
詳しい方は以前からご存じだったようですが、初めて知った当方、仰天しました。
さっそく、読んでみたところ。
謎の主催者に招かれた客たちが、閉じ込められて(こちらでは孤島ではなくパーティー会場)、それぞれの暗い秘密をほのめかされ、1人ずつ死んでいく。
という部分は同じでしたが、それ以外は全然違いました。
しかも、わたしの読んだ日本語訳(オーエン・デイヴィス『九番目の招待客』国書刊行会、2023年)によると、この戯曲には同じ1930年に発表された原作小説もあるとか。
そして、その2作品が発表された1930年から、『そして誰もいなくなった』が世に出た1939年までの間には、似た設定の小説が何冊も出版されたとか。
となると、これはもはや「元ネタ」というより、同書の解説にもあるように、「インスピレーションを与えた」という説明の方がしっくりくるように思いました。
つまり、この設定を洗練させ、世界で一番知られている作品が、この『そして誰もいなくなった』といえるんじゃないかなーと。
(なにせ、世界で1億部以上売れているそうですから☆)
「そして誰もいなくなった」あらすじ
8月8日、真夏の暑さを避けるように、さまざまな職業や年齢の8人の男女が、それぞれ「兵隊島」に向かうシーンで物語は幕を開けます。
岩や崖に囲まれたこの島は、海が荒れると渡し舟がつけられず、本土と行き来できなくなります。
ボートで島についた客たちは、現代的な豪邸と使用人夫妻に迎えられますが、この夫婦も数日前に雇われてやって来たばかりで、館の主の顔は見ていないとのこと。
客室には「十人の兵隊さん」の出てくる童謡の歌詞が飾られ、食堂のテーブルには小さな兵隊の人形が十体飾られています。
その夜、夕食を終えてくつろぐ客たちに、招待主だという謎の声が聞こえてきます。
客と使用人夫妻の計10人に対して、彼らが犯した過去の殺人を糾弾する謎の声。
招かれた人たちは誰ひとり、招待主を知らなかったことが発覚します。
やがて、彼らは一人ずつ見えない犯人の手で童謡の歌詞の通りに殺されていき、そのたびにテーブルの人形も一つ姿を消します。
本土からのボートは現れず、天気も荒れ、島は出ることも入ることも、そして隠れることもできない、密室状態になります。
いったい誰が犯人なのか。
互いを疑い合う生き残った人々に、見えない手が容赦なく迫り――。
「そして誰もいなくなった」感想
謎解き困難! ヒリヒリするサスペンス
集められた10人が10人とも、暗い過去を背負っているせいでしょうか。
このお話って最初から暗ーい雰囲気が、というか、率直にいうと、そこはかとない狂気の気配が漂っちゃってるんですよねー。
10人の多くが、過去の事件について何度も思い返し、罪悪感にむしばまれ、ぎりぎりで精神のバランスをとっています。
そんな中、第5章後半(p121)でとある人物が、
「この島から出ていきたくない」
というのです。
みんなが島から脱出する方法を探しているときに、追い詰められたこの人はもう……っていうのが、すごく胸に迫りました。
一方、犯人やトリックを推理する手がかりは非常に少ない作品です。
地の文にフェイクがそのまま書かれている箇所もあり、謎解きは相当難しいのではないでしょうか。
(初めて読んだとき、早々に謎解きを諦めた記憶があります 笑)
絶妙なミスリード
また、招かれた10人それぞれについてあまり深く描かれないまま、視点がどんどん変わっていくので、読み手が誰かひとりに深く共感したり肩入れしたりしにくい構成になっています。
しかも、全員が怪しく描かれていることもあって、読み手は犯人の手がかりに気づきにくいのです。
これって、「女王」の思う壺なんだろうなあ 笑
「そして誰もいなくなった」ミステリー史に残るトリック!
で、結局、誰がどういうことをやったの?
っていうのが、謎解きパートで、それも非常におしゃれな形で明かされるのですが。
明かし方も印象的だけど、このメイントリックが素晴らしいんですよねー。
これ、アレンジされて、たくさんの作品で使われています。
まさかの、令和の日本でも。
おかげで、他の作品を読んでもそこを疑う、スレた読者になってしまいました。
ついでに言うと、犯人、最後の方は不眠不休だと思うんだけど、大丈夫だったのかな?
「そして誰もいなくなった」ドラマや映画にも
テレビ朝日系ドラマ「そして誰もいなくなった」(2017年3月)
原作を日本に置き換えて作られたこのドラマ、以前はAmazonプライムで観られたようですが、今は観られなくなっています。
ご参考までに、リンクだけ貼っておきますね。
脚本は江戸川乱歩賞作家・長坂秀佳。
仲間由紀恵さんきれいー。死なないで―。と、家族と騒ぎながらリアルタイムで楽しみました。
そして当方、余貴美子さんファンでもありまして。
きれいでかっこよくて、シリアスもいいけど、大女優なのにコメディも全力でやってくれるところが素敵ですよねー。
日本テレビ系ドラマ「そして、誰もいなくなった」(2016年7月~9月)
こちらは、タイトルと「いなくなった」点は似ているしとても面白かったけど、クリスティーの作品とはまったくの別物です。
最終回のあと、「……え、タイトル?」ってなりました 笑
(たしかにそういうお話ではありますけどねー)(観た人にはきっとわかっていただける 笑)
主役の藤原竜也さんは安定の、いいやつなのにピンチ→逃亡→またピンチで、目が離せない。
最近はもう、コマーシャルとかで無事な藤原さんを観ると、「よかったねたっちゃん、幸せそうで」とかしみじみしちゃう。
そして、Hey! Say! JUMPの伊野尾慧くんの演技が最高でした。彼のフェミニンな見た目が活かされた役柄だったなあ。
(伊野尾くんは、2018年放送の「トーキョーエイリアンブラザーズ」もすごくよかったです。
あと、もともと観ていた「家政夫のミタゾノ」シリーズにも、途中からレギュラー加入してきてびっくりした。「ミタゾノ」で所長役してる余貴美子さん、のびのびやってて最高です 笑)
そういえば、この作品で桜井日奈子ちゃんを初めて認識しました。夢のようにかわいい正統派美少女!
そして、眼鏡&スーツ好きのみなさまにおかれましては、三つ揃え着た玉山鉄二さんがたまらなかったのでは 笑
NHKBSプレミアム「そして誰もいなくなった」(2016年11月~12月、BBC制作)
こちらはわたしは観ていないのですが、たいへん人気が高かったとか。
イギリスでの放送は2015年12月。
ほかにも様々な映像作品がありますが、長くなったのでこのへんで。
(あっ、映画が紹介できなかった!)
こんな人におすすめ:ミステリーファンだけじゃない、ドラマや映画好きさんにも
そんなわけで、未読のみなさま、おめでとうございます!
こんな面白い作品をこれから読めるだなんて、うらやましい限りです。
ミステリー小説好きさんにも、本はあまり読まないけど映画やドラマは好きという方にも、この作品はとにかくみんなにおすすめ。
というわけで、これはもう、どこかでうっかりネタバレ事故にあう前に、さっさと読んでおくのが吉です。
そして、その後同じトリックを使った作品に出会ったら、存分ににやにやしちゃってください 笑
おまけ:読みたいけど時間もお金もない? しかも疲れ目?(同士よ……)
この小説が面白いのはわかった!
読んでみたい or うっすら昔読んだ記憶があって再読したい
でも、時間とお金がないんじゃー!
疲れ目・ドライアイならあるんじゃー!
……というみなさま~。
( それはわたしです……)
よろしければ、通勤・通学や家事などの時間を「耳読書」の時間に変えてくれる、こちら ↓ を試してみるのも、ひとつの手かと。
気になるナレーターは作品別。
朗読のスピードは、速くも遅くも変更可能です。
「そして誰もいなくなった」のナレーターは平川正三さん。
わたしの場合は1.2倍速でちょうどよかったです。
・聴く読書ってどんな感じ?
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そんな疑問を解決するために、5分間の視聴もできますよ~。
(1)上のリンク先の一番上にある検索窓に、読みたい本のタイトルを入れて検索
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の2ステップで、視聴スタート。
まずは試してみてはいかがでしょうか。
以上、長文におつきあいいただき、ありがとうございました。
次回は、本作にひけをとらないくらい有名、かつ、たいへんクリスティーらしい作品を取りあげます。
よろしければ、またお読みいただけたら嬉しいです。
どうぞみなさま、ハッピーな物語体験を♪